「ホテルを扱った作品」の第三弾は、桂望実『総選挙ホテル』(角川書店、2016)。いまいちヤル気のない従業員たちが働く中堅ホテル。当然、売り上げも停滞。そんなホテルの社長に、現実離れした大学教授が就任することになります。新社長が行ったのは、ホテルの人員配置を、スタッフ全員が選挙で決めるという奇想天外なアイデアの実施でした。それは、「自分で考えて動けるスタッフを増やす」ことを考えてのことだったのですが……。
[おもしろさ] すべて人員配置をスタッフ自らが投票で決める!
すべての企業のスタッフの配置は人事課(部)によって決められるというのが世間の常識。しかし、人事課だけではなく、もっと多くのスタッフがその決定に参加すると、いったいどういったことが起こるのか? この本のおもしろさは、まさにそうした前代未聞のアイデアがあるホテルを舞台にどのように実施され、どういった結果をもたらしたのかを明らかにした点にあります。
[あらすじ] 研究の有効性を現実の中で試してみませんか?
経費削減、新商品の開発、宣伝強化、料金の値下げなど、いろいろな策を講じてきたものの、一向に売り上げ減の流れが止まりません。海外からの観光客は増えているのですが、ブランド力のある高級ホテルと安いビジネスホテルへの二極分化が進展。その中間に位置する「フィデルホテル」(従業員数800名)は、苦戦が続いています。業を煮やした投資ファンドが送り込んできた新社長は元山靖彦。企業で働いた経験はなく、もっぱら大学で28年間社会心理学の研究をしていた人物でした。投資ファンドの柴田貴之が元山に依頼したときの弁とは? 「先生の論理には実体がありません。実体験をしてみませんか。ちょうどいいあんばいのホテルがあるんです。もう身売りか商売替えの段階まできているホテルなので、仮に先生の実験が失敗しても、それほど寝覚めが悪くはならないでしょうし、そんな状態だからこそ思い切ったことができるという面があります」。新社長として、元山が打ち出したのが、「従業員総選挙」という突拍子もない改革案。その内容は、①すべての部署の人数を20%ぐらい削減する、②社員もパートもバイトもすべて立候補する、③全員が自己PRと文章と映像で発表する、④選挙期間が終われば、前スタッフがそれぞれの部署に誰を配置するかを考えて投票する、⑤その際、なぜその人物を選んだのか理由を書いてもらう、⑥新組織は全員がフラットなので、セクションのリーダーも立候補してもらうというもの。要するに、人事課が考えた人員配置がうまくできていないので、管理職も含めて、すべての職務を選挙で決める、つまりは、スタッフ自らがそれを行うというものだったのです。慌てまくる従業員たち。しかし、「残された時間はごくわずか。一発逆転を狙うしかない。嫌われても憎まれても当然」と頑として、事を進める元山社長。こうして、投票に基づいた新体制が発足します。そのうえ、監視カメラを使って、スタッフの仕事ぶりを仲間に評価させる手筈も整えます。その帰結や、いかに?