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『ボクの町』 - 交番に勤務する警察官のお仕事のあれこれ

あなたが好きな小説は? 最近では、映画やドラマでも頻繁に取り上げられている警察小説が挙がるかもしれませんね。警察小説とは、事件や犯罪に対する警察官・刑事や警察機構・組織による捜査活動を対象とした小説のこと。いまでは、ミステリー、ハードボイルド、人情もの、内幕もの、科学ものなど、さまざまな内容の作品が公になっています。今回は、警察官の「仕事」という切り口から見ておもしろい作品を四回に分けて紹介します。

「警察官を扱った作品」の第一弾は、乃南アサ『ボクの町』(新潮文庫、2001年)です。なかなか自分の「居場所」を見出せないでいる「今風の青年」が、警察官という仕事と出会い、赴任した交番での仕事と悪戦苦闘するなかで、自らの「居場所」=「働きがい」を発見していく過程が人情味豊かに描写されています。交番という職場におけるお仕事の「あれこれ」を味わってください。

 

[おもしろさ] たとえ偶然でも出会った仕事と向き合うなかで

人間の生存に欠かせないのが仕事。しかし、その仕事との出会い方は実にさまざまです。本書の主人公・高木聖大が警察官というお仕事と出会ったのは、まさに偶然そのもの。失恋の痛手でやけ酒をあおり、財布を落として、交番に駆け込みました。そのとき、そこにいた警察官に勧誘されたのです。「馬鹿、言わないで下さいよ。どうして俺が、そんなダサイ仕事につくと思うんスか」。「最初のうちは、そんなふうに笑い飛ばしていた。だが、心のどこかででは、『やった』とも思っていた。誰かが誘ってくれる、誰かが『お前が必要だ』と言ってくれるのを、ずっと待っていたのかも知れないと、後から気づいた。とにかくどこかに落ち着き先が欲しかった、自分から頭を下げて、遠慮しながら入れてもらえる場所ではなく、『さあ、来い』と言ってくれる場所がほしかったのだ…」。ただ、そうは言っても、聖大が自分の「居場所」を発見するまでには、非常に長い紆余曲折が必要でした。本書の特色は、たとえ偶然でも出会ったお仕事と真正面に向き合うなかで、新米警察官が「居場所」を見つけていくプロセスを浮き彫りにしている点にあります。

 

[あらすじ] この町に住んでいる人たちの生活を守りたいと思え! 

警察学校を卒業して、警視庁城西署・霞台駅前交番に巡査の見習いとして赴任した高木聖大。未だ居場所がわかりません。警察手帳にプリクラを張り、ピアスをするような、今風の若者です。「生まれて初めて交番の前に立ち、たった一時間過ごしただけで、聖大は疲れ果ててしまった。何しろ、休む間もなく色々な人がやってきて、実に様々なことを言うのだ。道を教えてくれ、落し物をしたという他にも、子どもがいなくなった、自転車の鍵を拾った、金を貸してくれないか、などなど」。交番とは、「駆け込み寺」「町のなんでも屋」かも。班長の宮永巡査長は、聖大よりも、2~3歳年上の「頼れる兄貴」。「まず、この町を好きになれ。この町に住んでる人たちの生活を守りたいと思えるようになれ」と言います。彼の指導のもと、交通事故、ボヤ騒ぎ、迷惑駐車、騒音苦情、不審者、迷子、喧嘩、酔っ払い、空き巣、ひったくりなどの、トラブルなどに対応していきます。

 

ボクの町(新潮文庫)

ボクの町(新潮文庫)

 
駆けこみ交番 (新潮文庫)

駆けこみ交番 (新潮文庫)

  • 作者:乃南 アサ
  • 発売日: 2007/08/28
  • メディア: 文庫