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『サイレント・ヴォイス』 - 被疑者の自供率百パーセントを誇る取調官

「警察官を扱った作品」の第二弾は、佐藤青南『サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻』(宝島社文庫、2012年)。行動心理学を駆使したユニークな取り調べを行う女性警察官の仕事ぶりを描いています。2020年5月~7月にテレビ東京系列で放映された「金曜8時のドラマ」である『サイレント・ヴォイス』の原作本。ヒロインを演じた栗山千明さんの熱演ぶりが印象的でした。行動心理捜査官・楯岡絵麻シリーズのスタート作品でもあります。

 

[おもしろさ] 「よろしくね、大脳辺縁系ちゃん」

「楯岡は取調室に入るなり、『きみが崎田博史くん? よろしく』と握手を求めた。『なかなかイケメンじゃない』とおだてたりもした。その後は例のごとくキャバクラトーク。おかげで被疑者はすっかり上機嫌だ」。この本のおもしろさは、行動心理学を用いた捜査官・楯岡絵麻の取り調べのユニークさにあります。取り調べにおける絵麻の生命線は、人並み外れた洞察力と、無意識下の表情や行動から、相手の本心を読み取っていく力。最初は、被疑者の緊張を解きほぐすことからスタート。そのためには、とても取り調べとは思われない、上述のようにくだけた口調で話しかける。事件とはまったく関係がないような話題で、相手をすっかり安堵させる。そして、突如として核心に切り込んでいく。「よろしくね、大脳辺縁系ちゃん」と、被疑者の大脳辺縁系に問いかけていくのです。被疑者がいくら事実を隠そうとしても、大脳辺縁系はとても正直。それゆえ、嘘をついたとき、「五分の一秒だけ表れる微細行動=マイクロジェスチャーを注意深く観察する」ことで、絵麻には、嘘を見破ることができるのです。被疑者の自供率百パーセントとは、けっして誇張ではないのです。

 

[あらすじ] 嘘をつく人間が見せる「なだめ行動」を見極める! 

警視庁捜査一課巡査部長で取調官の楯岡絵麻。同僚で、ちょっと頼りのない年下の刑事・西野圭介をあきれさせたり、驚かせたり、感心させたりしながらも、行動心理学を用いて、相手の仕草や行動パターンから被疑者の嘘を見破っていきます。嘘をつく人間が見せる「なだめ行動」を見極めることができるからです。「本心と異なる発言をすることは、人間にとって少なからず不安や緊張を伴う。目もとを覆う。鼻を触る。髪の毛を弄ぶ。舌で唇を湿らせる。貧乏揺すりをする。嘘をつくことによる心理的ストレスを解消しようとするのが、なだめ行動だ」。だから、どのような被疑者であっても、自供に追い込んでしまうのです。