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『再雇用警察官』 - 定年後も働く再雇用警察官ならではこそのメリットが! 

「警察官を扱った作品」の第四弾は、姉小路祐『再雇用警察官』(徳間文庫、2019年)。定年を迎えた辣腕刑事。再雇用警察官として、行方不明者の捜査に携わるなか、それまでに培った人脈と勘で難事件と向き合います。テレビ東京系列の「月曜プレミア8 ドラマ」として2020年5月11日に放映された『再雇用警察官』(主演:高橋英樹さん、出演:本仮屋ユイカさん)の原作本。

 

[おもしろさ] 行方不明者には、自発的失踪者と特異行方不明者が

日本における殺人事件の年間総数は千件以下。それに対して、行方不明者の方は「ここ数年、9万人から10万人」になっています。殺人のように派手に報じられることはありませんが、数の上では、その百倍近くに達しているのです。行方不明届は、以前は捜索願と呼ばれていました。もちろん、その大半は自発的な失踪者です。誘拐や拉致などのような事件性がある「特異行方不明者」の場合を除けば、民事不介入で警察が関与することはできません。ところが、自発的失踪者と特異行方不明者の間には、明確な線引きが難しいグレーゾ-ンがあります。本書の特色は、第一にこれまでの警察組織ではほとんど注目されてこなかったその「グレーゾーン」への初めての取組み事例になっていること。第二に、現役時代に培ってきた人脈や捜査力が、いろいろな制約から解放される再雇用警察官であるがゆえに思う存分発揮できるという内容になっていること。例えば、人脈という点では、安治川が府警本部での12年間、ずっと捜査共助課で勤務したときに培ったものが大きく役立てられたのです。捜査共助とは、他の都道府県警察からの依頼を受けて捜査の手助けをするという任務です。そして、第三に、事件の真相に迫っていくプロセス=なぞ解きのおもしろさを堪能できることが挙げられます。

 

[あらすじ] 「今が一番ええ人生のゴールデンタイムかもしれへん」

安治川信繁60歳は、定年後も大阪府警のフルタイムで働く雇用延長警察官として勤務を続けることにしました。給料は定年時の六割程度に激減。階級は巡査部長待遇というあいまいな呼称です。しかし、上司の意向に逆らっても、処分や意趣返しの異動もありません。要するに、思い切って働けるのです。配属先は、日本では初めての設置となる生活安全部消息対応室。ざっくり言えば、行方不明人捜査官。組織としては府警本部の生活安全部に所属するが、職場は四天王寺署の一室を間借りするというものでした。部屋はプレハブの元装備庫。室長である芝警部、安治川、新月良美巡査長から構成される、総勢3名の小所帯。行方不明が自発的か否かを選別したりするのが主な仕事です。それでも、安治川にとっては、「ひょっとしたら、今が一番ええ人生のゴールデンタイムかもしれへん」という思いを胸にまい進していくのです。ところが、最初に取り組むことになる案件第一号が、実に複雑怪奇な難事件の様相を呈していくことに。

 

再雇用警察官 (徳間文庫)

再雇用警察官 (徳間文庫)

 
再雇用警察官 いぶし銀 (徳間文庫)

再雇用警察官 いぶし銀 (徳間文庫)

  • 作者:姉小路祐
  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: 文庫