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『お客さま、そのクレームにはお応えできません!』 - クレーム対応のトリセツにも

「不動産会社を扱った作品」の第三弾は、三浦展『お客さま、そのクレームにはお応えできません! [小説]不動産屋店長・滝山玲子の事件簿』(光文社知恵の森文庫、2017年)。昨今における都内の不動産屋の仕事内容、働いている人のホンネ、賃貸住宅の現状がよくわかる作品です。話の視点は、町の不動産屋の女性店長。セリフがあり、小説風には書かれているのですが、「こんなこともあんなこともありますよ」といったイメージ。むしろ「賃貸住宅」を主人公にしたドキュメンタリー風の作品に近いと言えます。登場する不動産屋の業務は、家の販売ではなく、賃貸住宅の管理と仲介。仲介とは、窓口で応対し、部屋を探すというのがお仕事。一方、管理とは、入居後の生活上いろいろ発生する問題を解決するお仕事です。ほぼクレームへの対応と言えるでしょう。

 

[おもしろさ] どのようなことでもクレームの対象に! 

この本の特色は、賃貸住宅にまつわるクレーム・トラブルの数々とそれらに対する不動産屋の対応・受け止め方を描き上げていること。では、どのようなクレームがあるのでしょうか? 「目を凝らしても見えないくらい小さな壁の傷」「トイレットペーパーのホルダーのネジのゆるみ」「風呂のガスが止まった」「温水洗浄便座が動かない」「エアコンが壊れた」「インターネットが通じない」「オートロックのドアが開かない」「音楽の音がうるさい」「ゲーム機の音がうるさい」「マンションの前の雪かきをしてくれ」「排水溝にゴミが詰まった」「部屋が結露して困る」「大家がセクハラした」「ゴキブリがでるので、なんとかしろ」……。どのようなことでもクレームの対象になるようですね。なかには、クレームに対応して解決するのに現場に何回も行ったり、工事関係者と何度も打ち合わせたりするケースも。では、クレーム処理の基本はというと「まずは相手の言うことを聞いてあげるということ。クレームを言うことである程度不満が解消されるから」だとか。[

 

[あらすじ] こんな客さんは嫌! 店長のホンネ! 

滝山玲子42歳が店長を務めている「フレンズホーム不動産」は新宿区にあり、新宿区、中野区、杉並区当たりの物件、およそ3600戸を扱っています。アパートもマンションも空き家だらけ。入居者の収入は下がり、それと反比例して要望はどんどん膨らんでいきます。社員に課せられるノルマが大変。すぐに部屋を決めてくれるお客さんを選びたいのに、「いい物件があったら」という人は、時間がかかってしまうので、こちらは後回しに。どの条件が自分の優先順位なのか決まらない人とか、夢みたいなことばかり言う人も歓迎されません。それに、初めて来店する「初回接客」も、相場というものをまったく知らないので、正直、接客したくないお客さんです。それから、「風水マニア」も嫌がられますね。でも、そうした嫌なお客さんと接したり、クレームにあきれ果てたりしながらも、なんとか店長としての役割を果たしていくのです。