電通が発表した媒体別広告費によりますと、2019年、インターネットの広告費(2兆1048億円)がついにテレビ(1兆8612億円)を抜き去りました。しかしながら、テレビは、依然としてわれわれの日常生活に深く浸透しています。その報道力は、時として行政・立法・司法の三権を凌駕し、「第四権力」と称されるほど大きな影響力を持っています。また、人気のあるキャスター・アナウンサーは、しばしばお茶の間の話題ともなり、テレビ局は非常に「華やかな世界」として一般の人には思われているようです。が、その内部の状況は、あまり知られていないのが実情です。そこで、テレビ局で働く社員たち、プロデューサー、キャスター・アナウンサーなどに焦点を合わせ、「華やかさ」のウラに埋もれた業界内部にメスを入れた作品を、五回に分けて紹介したいと思います。
「テレビ局を扱った作品」の第一弾は、高杉良『第四権力』(講談社、2013年)です。新聞とともに、「第四権力」の代名詞的存在であったテレビ。しかし、検証能力の低下、批判精神の希薄化によって、その言葉が死語になってしまうことが危惧されています。本書では、次期社長をめぐる権力闘争と親会社である新聞社との確執を軸に、テレビ局の内幕が描かれています。
[おもしろさ] テレビ局が抱える問題点とは?
この本の最大の特色は、テレビ東日を舞台に、「第四権力」としてのテレビ局の劣化の現状を浮き彫りにしている点にあります。具体的には、何事にも自然体で接することができる経営企画部員の目線で、同社が抱えるさまざまな問題点が暴露されていきます。それらは、以下のように多様で、しかも構造的です。「1985年までは全員コネ入社」でしたが、その後も石を投げればコネに当たると言われるほど、政治家、新聞社、テレビ局、大手企業の役員や幹部の息子や娘などで溢れています。かつて新聞の方がパワーを持っていた時代の名残で、東日新聞が依然として親会社風をふかし続けています。新聞社の圧力が端的に示されるのが、テレビ局のトップ人事への介入です。ほかにも、「男女関係にゆるく、見え見えの不倫が結構多い」「新聞=活字に対するコンプレックスの存在」「モニター数は少ないのに、視聴率に振り回されている」「せっかくの大スクープさえ、スポンサーの利益を損なうことなら躊躇してしまう」といった指摘がなされています。新聞社との軋轢、視聴率至上主義、スポンサーへの忖度など、いずれも、テレビ局の劣化に繋がる要素と言えるでしょう。
[あらすじ] トップは、親会社からの天下りかプロパーか?
1986年、テレビ業界ではまさに新機軸となった報道番組「久保信ニュースショー」(午後10時スタート)を立ち上げ、急成長を果たしたテレビ東日。2007年11月、経営企画部員の藤井靖夫は副部長待遇の45歳。現在の社長は、「親会社」である東日新聞からの「天下り」の渡邉一郎。社内の最大の関心事は、来年度に予定されている次期社長が「親会社」である東日新聞からの「天下り」になるか、それとも初のプロパーとなるのかという点。ただし、初のプロパー社長の最有力候補は、「ダーティ瀬島」の異名で呼ばれるいわくつきの人物・瀬島豪63歳。親会社からのトップの押し付けは、社内の士気を停滞させるし、瀬島にはトップとしての器量は望むべくもないと考える藤井。事実、「テレビ東日、実力専務の瀬島氏にセクハラ疑惑」が有力週刊誌で報じられることになります。そこで、藤井は、広報局長の堤杏子(アナウンサー出身)と親密な関係を築くなかで、人望の厚い木戸光太郎常務(経営企画部担当)の次期社長への就任を強く期待するように。ところが、東日新聞の小田島義雄専務が一期2年だけ社長に就任させるという、渡邉の考えに従って、事態が進んでいきます。そして、2年後、今度は?