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『記者の報い』 - インタビュアーの苦悩と誘惑・快感の挟間で

「テレビ局を扱った作品」の第四弾は、松原耕二『記者の報い』(文春文庫、2016年)です。著者は、かつてTBSの『筑紫哲也NEWS23』に関わったあと、『ニュースの森』のメインキャスターやニューヨーク支局長を務めた人物。知り尽くした、テレビ局の報道現場があぶり出されていきます。また、報道記者・キャスターの仕事と苦悩が描かれていきます。インタビューとは、いかなるものか? 考えてみてください。原題は『ハードトーク』(新潮社、2013年)。

 

[おもしろさ] テレビの生番組で起こりうること! 

限られた時間内に収める必要があるインタビューの場合、ほぼ「台本」があります。それに基づいて進行していくケースが普通です。もちろん、いくら台本があるからと言っても、常にすべてがその通り進んでいくわけではありません。したがって、インタビュアーには、瞬時の判断力と機転が不可欠となります。しかし、インタビュアーにとって、台本通りではない展開が作り出すかもしれない、新鮮な生の表情や意見を引き出そうという誘惑・快感もまた、大きいものがあると言わざるを得ません。インタビューが、録画で放映される場合はいざ知らず、生番組では、言い直しが利きません。そのため、本書の展開に示されるように、ちょっとした発言で、その人の運命を大きく変えてしまうリスクさえはらんでいるのです。本書の魅力は、そうしたインタビュアーの苦労・苦悩と誘惑・快感を見事に描き出している点にあります。

 

[あらすじ] 不用意な発言が引き起こした「負の連鎖」

1992年、首都テレビの報道記者である岡村俊平は、厚生大臣になったばかりの藤堂一郎にインタビューをしました。彼以外の友人はいないと思われるほど、気心が知れた間柄でした。ところが、インタビューの最中に、心の中である誘惑・悪意が。大臣のクビをとれるかもしれないという思いが沸き起こったのです。「逃げるんですか」という岡村の問いかけに、藤堂は「なんだと俺は逃げるような男じゃない。その時は担当の大臣として責任を取る」と言い切ってしまったのです。「責任を取る」という言葉があとで独り歩きしてしまい、結局、藤堂は、大臣を辞任。それが契機となって、藤堂と岡村は、二人とも「負の連鎖」を経験することになります。藤堂は選挙に敗北し、妻・和子が死去します。岡村の方も、娘の死だけではなく、「周りで次々と不幸が起きる」ことに。それから20年近い歳月が経過した2011年、長年インタビュアーを務めてきた番組「ハードトーク」を一年前に降板させられていた岡村に、内閣総理大臣になった藤堂から生放送でインタビューを受けるという申し入れがなされます。こうして、20年間の空白期間を経て、二人の真剣勝負=インタビューが! 

 

記者の報い (文春文庫)

記者の報い (文春文庫)

  • 作者:松原 耕二
  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: 単行本
 
ハードトーク

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