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『トレジャー』 - 起業するときに不可欠なメンターの存在とは? 

「起業を扱った作品」の第二弾は、犬飼ターボ『トレジャー 成功者からの贈り物』(飛鳥新社、2010年)。働きがいを感じることなく、悶々とした日々を過ごしていた会社員の男性が、メンター(助言をくれたり指導してくれる人)のアドバイスのもと居酒屋を立ち上げ、成功を収めていきます。事業のセンス、経営者にとって必要なことを知ることができます。メンターのアドバイスが起業の動機になったケースです。

 

[おもしろさ] ビジネスだけじゃなく、生き方までも助言

起業する場合に最も重要な点は、新規事業自体の斬新性・将来性。が、資金の調達や、困ったときにアドバイスをしてくれる人もまた、非常に大切です。本書のユニークさは、そうした役割を演じるメンターとのコラボレーションの姿を描いている点にあります。メンターの弓池は、出資をしたうえに、「ビジネスだけじゃなくて、生き方まで教えてくれる。励ましてくれたりもするし、問題を気づかせてくれたりもする」。彼によれば、成功するまでには、①「あきらめ」の状態にとどまっている、②目の前の楽しいことだけをする、「快楽」のみの刹那的な生き方をしている、③社会の中でルールに従い「適応」している、④自分のやりたいことを「軸」に活動している、⑤自分と関係者とおカネの「バランス」をとれている、⑥「ビジョン」に向けての動機づけをうまく行いながら、チームをリードしている、⑦「ミッション」に気づき、それを遂行している、という7つの段階があるといいます。また、起業する前には、課題・他人・自分・ビジネスモデルとの対峙方法をしっかりと学び、クリアしておかないと、起業に成功することはできないという指摘や、「自分が本当に望む夢にこそ壁は多く現れるもの。そして、壁が現れたということは成長してその妨害を乗り越えろというサイン」といった指摘も納得されられます。

 

[あらすじ] 自分の「働き方」を見つけるまでの長い道のり

外資コンサルティング会社に勤めていた5年間、「お客様の喜ぶ顔が見たい」という思いを膨らませていた中田功志(コウジ)は、30歳のとき、大門フーズに転職。ところが、ワンマン社長が君臨する同社は、完全なトップダウン方式で、上からの指示に従う社員ばかり。自分から発案する者は誰もいません。それでも、会社を変えたいという一心で頑張っていたコウジ。しかし、社長の言動は一向に変わらず、悶々とした毎日を過ごしていました。36歳になった彼。仕事中であるにもかかわらず、ゲームセンターでサボっているとき、元同僚で、面倒見の良い先輩だった野島から電話がかかってきます。2年前に突然大門フーズを退職し彼は、まもなくショットバーを開店する準備に忙しい毎日を送っているところ。開店準備中の店を訪れたコウジは、野島を介して彼のメンターである弓池と遭遇。「もしかしたら人生の転機になるかもしれない。ふとそんな予感がし」ていたコウジ。いまの会社では、働きがいを感じることができず、早く独り立ちしたいと考えていたコウジは、弓池の言葉に大いに啓発されることに。そして、独立に向けての第一歩を踏み出します。コウジが運営する居酒屋とは、どのようなものになるのでしょうか? 

 

TREASUREトレジャー

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