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『セカンドステージ』 - 主婦に代わって、家事を代行してくれる会社

「起業を扱った作品」の第四弾は、五十嵐貴久『セカンドステージ』(幻冬舎文庫、2014年)。主婦として子育てと家事で苦労したという自らの経験が起業の動機になっています。マッサージ師と家事代行を派遣するという会社を起業したのは、二人の子どもを持つ39歳の桜井杏子。子育てに手を貸そうとしない夫や姑との確執など、顧客が抱える多様な問題のみならず、家庭内の問題とも対峙しながら、彼女は、どのように会社の舵取りを行っていくのでしょうか? 

 

[おもしろさ] ママにも休息と癒しが必要という実感

起業した会社がうまくいくかどうかは、さまざまな要素によって決まります。なかでも、最も大事な点は、顧客のニーズに合致しているかどうかという点にほかなりません。では、杏子が考案した「マッサージと家事代行の組み合わせ」は、そうしたニーズをくみ取ったものになっていたのでしょうか? 答えはイエスです。「掃除、洗濯、炊事、皿洗い、その他を一括代行する。赤ん坊の面倒も見る。その間、一、二時間はママが休めるようにする。眠っていてもいいし、外出してもいい」。もちろん、子どもは世界で一番かわいい存在。それでも、疲れてしまう。ほんのひととき、信頼できる人に託して、たとえ一時間でも熟睡したい、一息つきたいというのがホンネ。また、肉体的な癒しも必要ということで、希望する人には、マッサージのサービスも併せて行うことにしたのです。事実、そのようなサービスを求めている人がいかに多いことか! それだけではありません。お節介なことも含めて、「誰かのために何かをするのを、避けたり逃げたりためらったりしない」というスタンスで、顧客と接していきます。この本のおもしろさは、休息と癒しが不可欠なママたちのハートをガッチリつかんだサービスを展開するには、スタッフの確保や、より踏み込んだコミュニケーションによって顧客の悩み相談にも乗っていくという姿勢などを含めて、なにをどのように組み立てれば良いのかを感じ取れる点にあります。

 

[あらすじ] 事務所を持たず、パソコンとスマホだけで営業

3年前に疲れているママ向けにマッサージと家事代行を行う会社「ムサシノマッサージ&家事代行サービス」を起こした桜井杏子。自分自身の経験から、ママたちの苦労を少しでも軽減してあげたいというのが、設立の動機でした。保険会社に勤めている、三歳上の夫の真人、小学校に通う尚也(10歳)と良美(7歳)の四人家族です。場所は、東京・武蔵野市。社屋や事務所があるわけではなく、もっぱらパソコンとスマホだけで営業しています。三人のマッサージ師と五人の家事代行スタッフを揃えました。お客様はもっぱらママ。家事代行スタッフは年寄りに限定。二人で行って、料金は2時間で5000円。基本的にはネットでの受付で、完全予約制が採用されています。果たして、そんな会社は、どのように事業を行っていくのでしょうか? 

 

セカンドステージ (幻冬舎文庫)

セカンドステージ (幻冬舎文庫)