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『女たちのジハード』 - 五人五色の人生ドラマ

総務省が2019年7月30日に発表した同年6月の労働力調査によると、女性の就業者は3003万人。比較可能な1953年以降、初めての3000万人越えとなりました。また、女性の生産年齢人口(15歳~64歳)の就業率は71.3%に達しています。しかし、働く女性の増加とともに、仕事と出産・育児との両立、男女間の賃金格差、管理職に就く女性の比率の少なさなど、男性優位社会なるがゆえのさまざまな課題が浮き彫りになっています。さらに、女性の働き方を考える場合のロールモデルがきわめて乏しく、独学独習しなければならないという課題があります。そこで、今回は、女性の働き方・生き方を考える際、参考にできる作品を4回にわけて紹介します。

「働く女性を扱った作品」の第一弾は、篠田節子『女たちのジハード』(集英社文庫、2000年)。中堅保険会社に勤める5人のOLの仕事と人生、夢と現実が描写されています。個性を持った女性たちが、踏まれても虐げられても、たくましく自らの人生を切り開こうとする姿が印象に残る小説です。第117回(1997年上期)直木賞受賞作品。

 

[おもしろさ] タテマエではなく、ホンネがずばりと! 

この本の最大の魅力は、働く女性たちのホンネがさまざまな角度から語られていることにほかなりません。男性の上司や同僚たちとの距離感、男性に対する思いやりの気持ち、「情熱をもってぶつかれるなにか……、生きている証」を探し出すための「もがきと模索」、好意を持っている男性に「罠を仕掛けて、ゲットしておいて、今度は悩める乙女」を演じるという勝手さ、困難に遭遇しても、したたかに生きていこうとする姿勢など。読者の皆さんは、全編を通して彼女たちのホンネに触れる多様なシーンに遭遇することでしょう! さらに、具体例を二つ紹介してみましょう。「ぼろぼろになるまで会社でこき使われて帰ってきた男にとって、家庭はくつろぐところだ。しかし女にとっては、そこが第二の戦場になる」。「男の人って、考えてみればキビシイよね。結婚って受け皿はないし、ちょっと留学ってわけにもいかないし。雇用流動化なんて首切りの言い訳で、実際は転職なんてほとんど無理だし。道が一本しかなくて、そこから外れたら脱落するしかない人生って、辛いだろうな。きっと」。

 

[あらすじ] 思い通りではないが、したたかに生きているのかも! 

舞台は、T火災という中堅保険会社。登場する5人の女性の生き様は、それぞれに思い通りではないようです。でも、したたかに生きていくという点では、共通しているのかも知れません。一人目は、四大卒入社11年の斉藤康子。バリバリ仕事をするわけでも、結婚するわけでもない。急な仕事が入れば、文句も言わずに残業し、後輩の愚痴の聞き役にもなっている。悪口を言われないかわりに、話題にものぼらず、気がついたら30歳を超えている。悪気も打算もないが、ナイーブすぎる男性との恋を自ら絶った彼女は、マンション購入を決意。二人目は、一流大学を卒業し、昨年入社したばかりの浅沼紗織。背が高くて美人なのだが、無神経で不作法なところがある。あれこれに挑戦したあと、アメリカに留学。見つけたものは? 三人目は、実質本位の栄養短大を卒業し、まもなく24歳になる三田村リサ。結婚願望が強いのに、6年も付き合っていた小学校教員の彼と別れてしまいます。しかし、部課長クラスには非常に評判の良い彼女は広報部に異動。女性としての出世コースに乗るのだが。四人目は、2年前に高卒で入社した紀子。男に依存しながら、道を拓いていこうとするタイプ。捨て身のアタックで男性を捕まえたものの、家事能力ゼロで、家庭内暴力に苦しむことに。五人目は、唯一の既婚者であるみどり。康子とは同期入社。同じ会社に勤める夫の課長への昇格と引き換えに、退職を打診。それを断ると、同じビル内にある関連子会社に出向になり、さらにはその会社の甲府支店に飛ばされ、結局、退職を余儀なくされています。

 

女たちのジハード (集英社文庫)

女たちのジハード