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『ガール』 - ガールとの決別! 働く30代女性の微妙な心情

「働く女性を扱った作品」の第二弾は、奥田英朗『ガール』(講談社文庫、2009年)。まだ「若い女の子=ガール」で通用するのか、もはやそうではないのか? そんな微妙な悩みに直面するのが30歳代の女性たち。彼女たちが直面する職場でのトラブル、悩み、行動などを軽快なタッチで描いた五つの話から構成される短編集。世の中の働く30代女性への応援歌と言える作品です。2012年5月に公開された映画『ガール』の原作。監督は深川栄洋さんで、香里奈さん、麻生久美子さん、吉瀬美智子さん、板谷由夏さんが出演しました。

 

[おもしろさ] 「大人の女」と「若い女の子」の挟間で

もう「若い女の子」とは見られないものの、その気分からなかなか抜けきれない等身大の30歳代の心の中に肉薄。周りは「みんな二十代なんだもん、気が引けちゃって」。「これまで、若い女ってことでいっぱい楽しいことがあったけど、それももう終わりなのかなあって」。「元気出そうよ。わたしたち、まだ全然オッケーだよ。こと仕事に関しては若手の部類じゃない」。「もうガールじゃない、か……。若さが売り物にできる年ではない。男はともかく、女はそうだ」。「大人の女」への脱皮の過程で断ち切ることを余儀なくされる、そうした切ない「若い女の子」の実情がリアルに描かれています。

 

[あらすじ] 誰しもが通る転機。でも、形はいろいろ

第一話(「ヒロくん」)。主人公の武田聖子は、大手不動産会社に就職して14年目の36歳。悩みは、3年年上の部下との距離感! 第二話(「マンション」)。大手生保会社に勤める34歳の石原ゆかりの話。大学時代からの16年間、親友であり続けている大手百貨店勤務のめぐみ(34歳)がマンションを購入。そこで、彼女も、物件探しを開始します。「女の不動産購入には、一生独身というイメージがつきまとう」と言われるのですが。第三話(「ガール」)。学生時代以来ディスコに通い続けている32歳の滝川由紀子は、広告代理店に勤務。バブル入社組の先輩たちはみんな、「ブランド好きで気位が高かった。付き合う男も、出身校や勤務先で決めていた」。彼女の六つ先輩にあたる光山晴美こと、お光は、社内でも有名な派手な女! 第四話(「ワーキングマザー」)。36歳の平井孝子(自動車メーカーに勤務)はシングルマザー。でも、「息子の声を聴いただけで元気になれる。帰りを待っている家族がいるというのは、なんて素晴らしいことなのだろう」。第五話(「ひと周り」)。老舗文具メーカーに勤務する35歳の小坂容子は、1年間、営業三課に配属された新入社員・ハンサムな和田慎太郎の指導を命じられます。素直な好青年の出現に、「片思い」の感情を抱いてしまう容子。いずれの話でも、30代女性の誰しもが経験する、多様な形の転機が描かれています。

 

ガール (講談社文庫)

ガール (講談社文庫)

  • 作者:奥田 英朗
  • 発売日: 2009/01/15
  • メディア: 文庫