「航空会社を扱った作品」の第三弾は、池井戸潤『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社、2014年、文春文庫、2017年)。帝国航空の立て直しをゆだねられた主人公の半沢直樹は、再建プランを練り上げ、「抵抗勢力」を論破して、初志貫徹を図っていきます。半沢直樹シリーズの第4弾に当たる作品。『半沢直樹 4 銀翼のイカロス』(講談社文庫、2019年)としても刊行されています。第1弾目は『オレたちバブル入行組』。第2弾目は『オレたち花のバブル組』。第3弾目は『ロスジェネの逆襲』。2013年7~9月にTBS系の「日曜劇場」で放映された『半沢直樹』は第1弾目と第2弾目をベースとしていました。半沢直樹の「倍返し!」というセリフは、流行語になりました。それに対して、2020年7~9月に放映された新シリーズの『半沢直樹』は第3弾目と第4弾目をベースにしたものになっています。主演は堺雅人さん。出演は上戸彩さん、及川光博さん、香川照之さん。
[おもしろさ] 最後に用意される「どんでん返し」の「倍返し」
本書の魅力は、ずばり「抵抗勢力」に真っ向から挑み、苦しみ、崖っぷちまで追い込まれたあと、最後にどんでん返しを呼び込み、勝利を収めるというストーリー展開のスリリングさです。では、抵抗勢力となるのはだれでしょうか? 第一に、帝国航空の再生は単なる口実でしかなく、自らの功名心だけを求める国土交通大臣の白井亜希子。第二に、白井の私的タスクフォースとも言える「帝国航空再生タスクフォース」のリーダーとなり、「帝国航空を立て直した立役者としての評価が欲しい」という思惑で、東京中央銀行に対して理不尽な「七割カット」(500億円)の債権放棄を要請する有名弁護士の及原正太。第三に、「利権ビジネス」のからくりをけっして暴かれることなくうまくやり遂げてきた、進政党の大物議員であり、白井の親分格に当たる箕部啓治。第四に、不良債権回収を主担当とする再建管理担当常務で、箕部とは古くから付き合いがある紀本平八や、半沢への担当替えを余儀なくされたことで、屈辱の念に燃える審査部の曾根崎雄也次長という東京中央銀行内部の敵。第五には、半沢に対する復讐に燃えている金融庁の黒崎駿一検査官。基本は性善説だが、「悪意のあるやつは徹底的にぶっ潰す」。抵抗勢力に対する半沢の反撃は、実に爽快です!
[あらすじ] 「帝国航空を政治の道具にするな」!
東京中央銀行(旧S=産業中央銀行と旧T=旧東京第一銀行が合併して成立)営業第二部の半沢直樹次長は、中野渡謙頭取の意向で、審査部が業績悪化に歯止めをかけることができなかった帝国航空の担当者になります。帝国航空が危機に陥ったのは、①「七つの従業員組合があり、それぞれが独自の思惑と利害で動き、てんでばらばらの方向を向いて」おり、リストラに対しても猛烈に反対していること、②ずば抜けて良い従業員の待遇、③高すぎる企業年金の減額に対するOBの反発、④赤字路線撤退に対する政治家・国土交通省の圧力、⑤機材の老朽化、⑥世界的に見て飛びぬけて高い着陸料や航空機燃料税などの公租公課など。そうした危機的な状況下に置かれているものの、「再建計画さえきちんと履行されれば十分立ち直れるはず」と判断した半沢は、帝国航空による自主再建を事実上主導することに。銀行側の要望を盛り込んだ修正再建案を策定し、再建プランの実施に向けて努力を積み重ねていきます。半沢をサポートするのは、大学の同窓同期で、親友で飲み友達でもある渡真利忍(融資部企画グループ次長で、行内きっての情報通)。しかし、半沢の前には、抵抗勢力が創り上げた強固な高い壁が立ちはだかります。帝国航空は、自主再建が可能。なのに、なぜ、債権放棄を押し付けようとするのか? 「帝国航空を政治の道具にするな!」