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『舟を編む』 - 浮き彫りになっていく辞書作りの本質と奥深さ

「編集者を扱った作品」の第四弾は、三浦しをん舟を編む』(光文社、2011年)。辞書作りの大変さと奥深さを描いた作品です。「辞書は、言葉の海を渡る舟」。辞書づくりは、「海を渡るにふさわしい舟を編む」という作業。2013年4月13日に公開された、石井裕也監督の映画『舟を編む』の原作本。主演は、松田龍平さん。出演は宮崎あおいさんでした。2012年本屋大賞受賞作でもあります。

 

[おもしろさ] 言葉の魅力に気づかされる一冊! 

われわれが常日頃、あまり深く考えることなく使っている言葉の数々。未知の言葉に出会ったとき、その意味を知るために辞書を引きます。辞書はまさに、言葉という「広大な海」を渡るための手段となる「舟」にほかなりません。「たくさんの言葉を、可能な限り正確に集めることは、歪みの少ない鏡を手に入れることだ。歪みが少なければ少ないほど、そこに心を映して相手に差し出したとき、気持ちや考えが深くはっきりと伝わる。一緒に鏡を覗きこんで、笑ったり泣いたり怒ったりできる」。辞書、そして言葉の魅力に気づかされる一冊です。

 

[あらすじ] 13年間の歳月が費やされて

玄武書房に入社して3年目の馬締光也は、不器用な人物。辞書作りに人生を捧げた荒木公平の後継者として、営業部から辞典編集部に配属されます。島流しにあったとふてくされていた岸辺みどりもまた、やがて辞書づくりに楽しみを見出し、「言葉の持つ力」を発見することに。「傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力に自覚的になり、自分の心を探り、周囲のひとの気持ちや考えを注意深く汲み取ろうとするようになった」のです…。新しい辞書『大渡海』の編纂には、なんと13年間の歳月が費やされていくのです。

 

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)