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『家電の神様』 - 「街の電器屋さん」の生き残る道が提示! 

日本各地で商店街の多くがいま、危機に陥っています。「シャッター通り」になっているところも例外ではありません。衰退を促した最大の理由は、大型のショッピングセンターとの競争激化にあると考えられています。見方を変えれば、商店街とは「道路に沿って平面的に展開する商店の集合体」。それに対して、大型ショッピングセンターの方は「一つの大型ビル内に立体的にも展開する『商店』の集合体」と言うことができます。したがって、もし両者を構成する「商店」の質が同じであれば、多数の客は、より便利なショッピングセンターに流れていきます。しかし、商店街を構成するひとつひとつの商店主の力量がよりパワフルなもの、そのサービスがより良質なものであれば、結果は異なってくるのではないでしょうか。実際のところ、元気のよい商店街に共通して見られるのは、個々の商店街の商店主たちの意気込み・ヴァイタリティの高さにほかなりません。今回は、スペシャリストとしての誇りとパワー、そして独自な戦略を実現する心意気を有した個人商店に焦点を当てた作品を四回に分けて紹介します。

「個人商店を扱った作品」の第一弾は、江上剛『家電の神様』(講談社文庫、2016年)。大手家電メーカーで働いていた轟雷太は、入社3年目にしてリストラされ、地域密着型の「街の電器屋さん」である「でんかのトドロキ」で働くことを決意します。雷太の下で、進行する大改革。弱小電器店の再生・活性化を考える際の秘訣が詰め込められた作品です。

 

[おもしろさ] 値引き以上に価値のあるサービスを

安値で攻めまくる近所の大手家電量販店やインターネット販売業者に客を奪われ、「街の電器屋」である「でんかのトドロキ」の経営は風前の灯。「非効率なことこそ付加価値」とは言うものの、従来のやり方は、雷太の感覚では信じられないことだらけでした。客から頼まれた食材を代わりに購入する。顧客の自宅で料理を作る。客にはとことん尽くす。店内で客が本を読んでいる。将棋を指している。そこに店員がコーヒーを持っていく。包丁を研いでくれる。「でんかのトドロキ」のそうした営業は、いわゆる「裏サービス」。が、この裏サービスの延長線上に、街の電器屋が生き残れる道があるのでは? 再生にむけての同店の新たな戦略とは、なんと「徹底して非効率にすることで効率よく利益を上げる」というもの。言葉を代えると、「あの店は値引き以上の価値あるサービスをしてくれる、そんな評判をいただくような商売をする」ということでした。この本は、価格競争では絶対に勝てないかもしれないが、知恵と工夫で勝てる戦いがあることを気づかせてくれます。

 

[あらすじ] 自分たちの持ち味を見つけ、伸ばし、発揮する

大手家電メーカー・ビッグロード電器(業界2位)をリストラされ、実家のある千葉県稲穂市に舞い戻った轟雷太。実家の母が経営する「でんかのトドロキ」で働くことを決意します。同店の従業員は、番頭格の角さん(三原角一)ほか、3名。ライバルとなる量販店のオオジマデンキには、営業企画部責任者として、同級生の権藤竜三がいました。二ケ月間、自由にやりなさいという社長の言葉を受けて、やる気満々の雷太たちは、あの手この手の作戦を実行。やがて、「自分たちの持ち味を見つけ、伸ばし、発揮すればいい」という考えに到達します。

 

家電の神様 (講談社文庫)

家電の神様 (講談社文庫)

  • 作者:江上 剛
  • 発売日: 2016/12/15
  • メディア: 文庫