経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『東京ダンジョン』 - 地下には、メトロを軸にした迷宮のような世界が

「鉄道業を扱った作品」の第二弾は、福田和代『東京ダンジョン』(PHP研究所、2013年)。東京の地下には、地下鉄を軸に、地下道やトンネル、ビルの地下街、共同溝、下水道からさらには首都圏外郭放水路という巨大な地下神殿のような構造物などが、まるで迷宮のように存在。東京ラビリンスあるいは東京ダンジョンと呼ぶにふさわしい状況が生まれています。この本では、線路を知り尽くした保線作業員の目線で、メトロの内情が浮き彫りにされています。

 

[おもしろさ] メトロの組織、運行状況、保線業務が浮き彫りに! 

本書の特色は、テロリストとの格闘という物語の設定のもとで、東京のメトロの組織、運行状況、保線業務などの具体的な有り様を浮き彫りにしている点にあります。また、テロを生み出す背景として、人口減少、年金制度の破たん、コンピュータの普及によるホワイトカラーの仕事の喪失、正社員の縮小といった日本が抱える数々の問題・課題にも言及されています。

 

[あらすじ] 地下鉄の安全を守るという保線作業員のお仕事! 

東都メトロ銀座線の工務区に勤務する保線作業員の的場哲也。線路の上を徒歩でゆっくりと巡回し、テストハンマーでレールを叩いたり、列車の走行音を聞いたりして、異常がないかを確認していきます。レールのたった1ミリの歪みやズレも見逃しません。ひたすら無事に乗客を目的地に送り届けるのが仕事です。ある日のこと、点検中にトンネル内で怪しげな人影と煙草の吸殻を発見。その後、自宅に帰った哲也は、母親からある話を聞かされます。それは、的場の五つ違いの弟で、失業中の洋次が、鬼童征夫という過激な経済学者・評論家が主宰する勉強会・セミナーに通っているというものでした。狂信的な学生たちが組織している、鬼童の勉強会に参加することになった哲也。失業率の悪化、若者の就職難、格差の拡大、年金問題医療崩壊国債の残高増加、学級崩壊、年間の自殺者3万人といった現在の日本が抱えている現実と課題を突き付けられ、それらを解決するには、「世の中の仕組みを、いったん根底から覆す革命が必要」という鬼童の考えに接することになります。と同時に、意外な人物、地下のトンネル内で遭遇した男を見かけるのです。やがて、鬼童の勉強会に参加していた狂信的な学生たちが、「東京の地下を支配」するというテロ行為を企てます。地下鉄の安全を守りたいと考える哲也は、警察と協力して、テロリストと化した学生たちとの行動を阻止する行動を始動させます。

 

東京ダンジョン (PHP文芸文庫)

東京ダンジョン (PHP文芸文庫)