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『40 翼ふたたび』 - 転職によって初めて感じる「人生の醍醐味」

高度成長期(1955~73年)にあって、年功序列、企業別労働組合とともに、「日本的経営」の「三大特徴」のひとつとされたのが「終身雇用制度」。新入社員として入った会社で定年まで働くというその制度。完全になくなったわけではないものの、すでに大きく変化しています。いまでは、仕事・勤務先を変えることは、ごく普通の現象になっているからです。では、どのようなときに、人は転職を決意するのか、また、転職がその人の人生にどのような影響を与えるのか? 今回は、そのあたりの事情を探るべく、転職を考える時に参考になる作品を四回に分けて紹介します。

「転職を扱った作品」の第一弾は、石田衣良『40(フォーティ) 翼ふたたび』(講談社文庫、2009年)です。平均寿命を勘案し、「人生80年」とすると、「折り返し点」になるのが40歳。この時期になると、「人生の半分が終わってしまった。それも、いい方の半分が」と、たくさんの人が思うのではないでしょうか! 吉田伸子さんが「解説」で指摘されています。『若いころの悩みといえば、先が見えないことから生じることが多い。ところが、40歳を超えると、先が見えてしまうことからくる悩みが増えてくる』と。では、40歳は本当に「いい方の半分の終わり」なのか? 転職によってフリーのプロデュース業を始めた40歳の吉松喜一が初めて体感することになる「人生の醍醐味」が描かれています。

 

[おもしろさ] 一番目にくるのは人と人との結びつき

転職した吉松喜一が自らのプロデュース業のPRにでもなればという気持ちでスタートさせた「40(フォーティ)」というサイト。それを見て、個性豊かな人たちが彼のもとを訪れることになります。没落してしまったIT企業の社長から始まり、やり手の銀行マン、長期引きこもりの男性など。彼らとの接触の模様が実におもしろいのです。「金は二番目だということだった。最初に人と人との結びつきがくる。それはやっかいなトラブルだったり、心配事だったり、予期せぬお楽しみだったりするのだが、そのあとで初めて仕事はそろそろとスタートするのだ」。考え抜かれた最後のクライマックスに至るまでのエキサイティングな展開を一喜一憂しながら楽しめる作品です。

 

[あらすじ] 40歳という節目に投げやりな気分で始めたのだが! 

大手広告代理店に入社して17年目の吉松喜一。もはや仕事に新鮮さを感じ取ることができなくなっていた彼は、先輩の甘い誘いに乗って退社。しかし、新しい会社にはなじめず、5ケ月後、投げやりな気分でフリーのプロディース業を始めます。じりじりと貯金を喰い潰していくなかで、自分のプロディース業のPRにでもなればと始めたのが、前述の「40(フォーティ)」。スローガンは、「人むすび・人あつめ・40歳から始めよう~なんでもプロデュースします」。それが契機となり、出会うこととなった多彩な人々との交流によって、人生のリセットが……。

 

40 翼ふたたび (講談社文庫)

40 翼ふたたび (講談社文庫)