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『ドスコイ警備保障』 - 全社員が元力士という警備会社! 

「警備員を扱った作品」の第二弾は、室積光『ドスコイ警備保障』(小学館文庫、2006年)。もし全社員が元力士という警備会社ができたら、いかなる展開があり得るのでしょうか? なにしろ、立ち合いのスピードはオリンピックの短距離選手並み、体重百キロを軽く超える巨体、しかも全身が筋肉。どんな凶悪犯でもかないません。すぐれた警備員・ガードマンになるのは確実だと言えるのでは? そうした設定に基づいた奇想天外な展開が待ち受けています。

 

[おもしろさ] 鍛え上げられた力士の身体能力が警備員の資質に変換

スポーツのほとんどは、シューズを履いて行われます。それゆえ、足指の動きが制約されています。ところが、相撲取りは、シコを踏む(正確には「地面を掴む」)ことで、足の指先を鍛え、硬い筋肉の塊のようなふくらはぎを作り上げているのです。だから、「引退した横綱万雪山なんてね。立ち合いのスピード測ったら、四メートルの距離ならカール・ルイスよりも速かった」と表現されるような力を持っています。おそらく、体重百数十キロの人間がそのスピードでぶつかってきたら、普通の人間なら死んでしまうほどの衝撃になるようです。本書の特色は、第一に相撲というスポーツの魅力が十二分に理解できるコンテンツになっている点、第二にそうした理解をベースに、警備員として活躍できる資質が実際のストーリーのなかで明らかにされていく点にあります。

 

[あらすじ] 「廃業後の力士の就職問題」への解決策に! 

芸能プロダクションの「AKプロダクション」を経営する木原敦子38歳。ある日、「廃業後の力士の就職問題」の解決に心を痛めている相撲協会理事長の南ノ峰親方から、郷里の中学高校の同級生3人と一緒に、次のような依頼を受けます。800人以上の力士の大半が廃業後に転進するのは一般社会。資格も学歴もない人が多く、体の大きい大飯食らいでもあり、自分の食い扶持を稼ぐだけでも大変。そこで、相撲協会が出資して元力士の就職先となる警備会社を設立させる。警備会社なら、力士の能力をフルに生かせる。名前は「ドスコイ警備保障株式会社」。軌道に乗るまで、代表取締役に就任予定の豪勇大輝のサポート役(=役員)をお願いしたいという内容。「ふーん、元お相撲さんのガードマンかぁ。それはいいアイデアね」と敦子。イベントの仕事だけではなく、マネジメントについても引き受けることに。ある会社の独身寮を活用し、そこに15名の元力士を住み込ませることで、ドスコイ警備保障がスタート。元力士の力量をうまく生かした警備会社に対するニーズは、トントン拍子に増え、その評判は海外にも。

 

ドスコイ警備保障 (小学館文庫)

ドスコイ警備保障 (小学館文庫)