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『カラオケを発明した男』 - カラオケの登場

「はじめて物語を扱った作品」の第二弾は、大下英治『カラオケを発明した男』(河出書房新社、2005年)です。いまでは、非常に多くの人にとって最も大好きな趣味・娯楽になっているカラオケ。国内のみならず、世界中の人々にも深く愛されています。そのカラオケのビジネス化に初めて成功した人物の名前は井上大佑(祐輔)。本書は、彼の半生を描いたドキュメンタリー・ノベルです。2005年5月に公開された映画『KARAOKE - 人生紙一重』(監督:辻裕之さん、主演:押尾学さん、出演:吉岡美穂さん)の原作。

 

[おもしろさ] もし特許を申請していたら……

この本のおもしろさは、なんといっても、井上大佑という人物そのものにあります。カラオケのみならず、ペット事業、電解洗浄液、還元水など、泉の如く新しいアイデアを思いつき、事業化していきます。そして、2004年には「イグノーベル賞」を受賞。ただ、そうは言うものの、アイデアマンだった彼は、けっして「良い経営者」ではありませんでした。モノに対する執着がなく、カラオケの発明にしても、カラオケ事業にしても、利益を上げるためにあくせくしなかったのです。だから、カラオケの発明者ではあるものの、特許を申請しませんでした。もし申請していたら、どれだけの収入を得ることになっていたことでしょう。計り知れない金額になっていたことは間違いありませんが、彼自身は惜しいとは思っていないようです。そのおかげで、カラオケは自由に普及し、いまのように世界的な規模で拡大したと言えるかもしれませんね。

 

[あらすじ] 「これは、商売になるんとちがうか」! 

大佑の生まれは1940年。小学生の時からちょっとしたアイデアを思いついては、実践する。そんな少年でした。楽譜が読めないのに、高校時代(浪速工業)は音楽部に入部。1965年、バンドのリーダーになり、三宮のキャバレーで働きます。彼と一緒にバンドマンの会社をつくった連中は、弾き語りを開始。神戸では、同じ弾き語りと言っても、ほかの町とは異なって、伴奏はするのですが、自分では歌いません。大佑は、よく歌われる曲200曲を丸暗記し、オルガンを使って弾き語りをスタート。歌っている人の口の動きに合わせて弾いたので、客に喜ばれました。ある日、出張を依頼されます。ところが、自分は行けないので、依頼人の声に合わせた伴奏を行い、テープに吹き込み、それを持参してもらったのです。そこで、閃きました。「これは、商売になるんとちがうか」。歌ではなく、曲のみをテープに吹き込んで歌えるようにすれば! カラオケの誕生です。1971年のことでした。

 

カラオケを発明した男

カラオケを発明した男

  • 作者:大下 英治
  • 発売日: 2005/09/14
  • メディア: 単行本