「バブルの時代を扱った作品」の第二弾は、門間 明『バブルの帝王』(飛鳥新社、2007年)。イ・アイ・イ・インターナショナルの社長として、バブル期には「南海のリゾート王」と称され、総資産1兆円を超える企業グループを構築した高橋治則を連想させる人物(高梨春則)の野望と挫折を描いた作品。
[おもしろさ] バブルの時代の「空気感」!
本書の魅力のひとつは、バブルの時代の時代状況のみならず、当時の空気感をも如実に示している点にあります。「ほとんどの日本人はバブルに浮かれていた。企業も個人も役人も政治家も、みな同じ感覚になった。良くも悪くも右向け右だった。隣の芝生は青く見え、先を争って投機に走った。プレーしないのに、ゴルフ場の会員権を舞う。使う当てもないのに、別荘や土地を購入する。都心の二億円のマンションが即日完売になる。企業は本業を後回しにして、金融商品や投機に走った。そのほうが本業よりも、はるかに儲かった」。そして、もうひとつは、高梨春則という人物の型破りの生き方の描写にあります。若いころから「世界を股にかけたビジネスをやる」ことを夢見て、さまざまな場面で見事に「ビッグマウス」ぶりを連発。しかも、バブル経済の渦中に、グローバルな規模で「錬金術」を駆使し実際にその夢の多くを実現させていったのです。
[あらすじ] 「高梨春則氏、若き世界のホテル王」
高梨は、J航空のサラリーマンを経て、有限会社高梨商事を創設したあと、C・I・C株式会社を立ち上げます。「既得権益を崩す。生産、流通、消費を自前でやる」ことを念頭におき、「日本の旧体制にとらわれず、アメリカ資本に対抗できる国際的企業を作る」ことをめざします。那須に、国内のゴルフ場第1号がスタート。完成する前に会員権の販売で資金を集めることを繰り返し、「3年間で20ケ所、ゴルフ場を完成させる」ことを志向。やがて、時代は、バブルに突入していきます。「アメリカの金融機関から金を借りて、アメリカのホテルやリゾートから金を吸い上げて、ベトナムでコメを作り、石油を掘る。ついでに、オーストラリアに広大な牧場を持って、牛を育てる。かくして、日本の新しい生命線を我々が握る」。世界の60ケ所にホテルを所有し、「高梨春則氏、若き世界のホテル王」として、世界的な雑誌『タイム』の表紙を飾ります。長銀のサポートを得ながら、「環太平洋リゾート構想」を実行に移していきます。総資産が1兆円を突破。しかし、バブルは崩壊。長銀のC・I・Cへの支援の打ち切り、高梨が経営する二つの信用金庫は完全に破たん、東京地検特捜部に背任容疑での逮捕などの苦境が待ち受けていました。