「バブルの時代を扱った作品」の第三弾は、姉小路祐『動く不動産』(角川文庫、1998年)。土地の価格が鰻登りに上昇し、「土地転がし」という言葉が流行したバブル期。では、そうした地価高騰がどのように実現されていったのでしょうか? それには、それを推進した「地上げ屋」たちの暗躍も大きく関与しています。この本は、日本の土地の登記制度や住民登録制度の盲点を悪用する地上げ屋の企てを浮き彫りにした作品です。第11回横溝正史賞の受賞作。
[おもしろさ] 制度上の盲点を悪用した「地上げ」の実態を暴く
地上げ屋には、暴力を駆使して住民を立ち退かせて土地をゲットするタイプのほかにも、悪徳不動産屋などが行う詐欺的な地上げがあります。彼らは、権利証代用の保証書と住民票移転による印鑑証明書を使った移転登記という卑劣なやり方を駆使して、精神的な揺さぶりを増幅させ、立ち退きや不動産の売却を強要したのです。なぜ、そうしたことが可能になったのでしょうか。第一に、土地の登記制度が「形式審査主義」に基づいているからです。書類さえ整っていれば、登記申請は受けつけられる。たとえ実際は偽造の書類であっても、外形的に見てわからなければ、実際の売買関係がなくても登記がなされてしまうのです。第二に、実印の押印が要らないので、「誰だって自由に、他人の住所を好きな場所に移動させることができる」住民登録制度が簡単に悪用されてしまうからです。本書の特色は、そうした法律や制度上の盲点を悪用した「地上げ」の実態が暴かれている点にあります。
[あらすじ] 土地売買に絡む難事件の真相を解明する司法書士
主人公は園田由佳と彼女の義理の兄に当たる石丸伸太。由佳は、バレーボールの日本高校代表チームに選ばれた花形選手でした。怪我をしたため、推薦で入学した体育大学を中退して、現在はアルバイとで生計を維持しています。一方、伸太の方は、大阪のミナミ、通天閣の見える貧乏長屋で、お好み焼き屋を兼業する売れない司法書士(代書屋)を営んでいます。丸々と太った「ブーやん」というあだ名がついた彼は、近隣の貧しい人々を悪い輩から守る正義派の代書屋。悪徳不動産屋は、土地を転がしたり、売買したりするときには、登記が必要なので、司法書士を使うことになります。その際、開業したての経験の浅い司法書士や仕事がなくて困っている司法書士のところへヤバイものを持ち込んでくる傾向があります。そこで、由佳と伸太の二人が土地の売買に絡む難事件の真相解明に立ち向かっていくことに。