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『企業買収』 - M&Aの実務とノウハウが満載! 

「企業の合併・買収を扱った作品」の第二弾は、木俣貴光『企業買収 海外事業拡大を目指した会社の660日』(中央経済社、2012年)。大手食品会社による中堅企業買収プロジェクトの始まりからクロージングまでの全プロセスが厳密に再現されています。コンサルタントとして著者が手掛けた複数の案件をベースにつくり上げられたフィクション。M&Aの実務・ノウハウが詰め込まれています。

 

[おもしろさ] M&Aのリアリティを感じ取れる! 

この本の魅力は、M&Aを行う理由→交渉の段取り→調査と吟味→取り決めの実態→最終的な決着というM&Aの全プロセスが、アドバイザーの役割やいろいろな「想定外の出来事」への対応などを含め、リアルに再現されている点にあります。細部に至るまでわかりやすく解説されていますので、実際にM&Aに携わることになった人には、是非とも読んでおくべき文献と言えるでしょう。「想定外のことが起こらない方法が一つだけある。それは、あらゆることを想定しておくことだ」という言葉は印象的。

 

[あらすじ] M&Aにはアドバイザーの存在も不可欠

大手食品メーカー・ヨシマル食品は、食品加工子会社による産地偽装事件のあおりで、業績が低迷し、株価も800前後で停滞。業績改善の切り札として期待されたのが、M&A専門部署として立ち上げられた成長戦略室です。室長に抜擢された高島憲一は、情報収集を集めるとともに、メガバンク系列の財務コンサルティング会社である五菱住井FASM&A部門のリーダーを務める今井正人に相談。そして、ワールドワイドにビジネスを展開している中堅水産会社のWシーフーズにターゲットを絞ります。その後に設けられた両者のトップ会談において、基本線で合意。こうして、4月下旬、ヨシマル食品、アドバイザーとなる五菱住井FAS、Wシーフーズ、アドバイザーとなるAZパートナーズという関係者が出揃い、キックオフ・ミーティングを開催することに。ヨシマルサイドでは、6月中旬の基本合意、7月中旬までのDD(対象会社のビジネスモデルを把握し、事業性の評価およびシナジー効果を分析し、事業統合に関するリスク評価などを行うこと)の完了、7月末の最終契約締結、8月上旬のクロージングとする最短のスケジュール案が想定されていたのですが…。想定外の「非常事態」が発生し、破談に追い込まれそうな様相に。

 

企業買収

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