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『マネーロンダリング・ビジネス』 - 損保業界ならではの「裏金づくり」

マネーロンダリングを扱った作品」の第二弾は、志摩峻『マネーロンダリング・ビジネス』(ダイヤモンド社、2009年)。東京の大手損害保険会社と、テキサス州にある米国法人の子会社、バミューダなどのタックス・ヘイブンを舞台に、壮大なスケールでマネロンの実態が浮き彫りにされています。また、マネロンの背景として、「全米で二千数百社もある」損保業界ならではの「裏金づくり」の手法や、日本企業の海外ビジネスを支える人的インフラの未整備や、「世界の保険マーケットを牛耳っている巨大ブローカー」が日本の損保企業の海外ビジネスに圧倒的な影響力を行使している様子を垣間見ることができます。

 

[おもしろさ] 日系大手損保の「グローバル感覚・経験の欠如」

この本のおもしろさは、「ローカルな保険会社を使ってローカルビジネスを引き受けた経験などほとんどなかった」日本の大手損保の「グローバル感覚・経験の欠如」と、「極東の片隅でこそ業界トップクラスと大きな顔をしていても、本格的海外ビジネスなどはほとんど経験のない」日本の損保会社を手玉に取ることなど朝飯前のように考えている、したたかな現地法人のトップとのコントラスが鮮明に描かれている点にあります。

 

[あらすじ] 子会社のトップは生き馬の目を抜くしたたか者

中央火災海上保険に勤める滝田浩介(38歳)は、竹尾宏一郎副社長の命を受け、テキサス州フォートワースにある子会社(TCI)の赤字原因調査のためにアメリカに赴きます。この2年間における業績低迷の実情を正確に把握している者がいなかったからです。「ローカルビジネスはローカルの人間に任せるのがベスト」という方針に従い、5年以上日本人スタッフをひとりも送り込まず、TCI社長のギルバート・ウォリスに全権委任されてきたのです。果たして、彼は、「生き馬の目を抜くアメリカの損保業界を三十数年渡り歩いてきたしたたか者」。そもそも、TCIを買うには買ったが、さてどうしたら良いかまるで分らないのが、中央火災の実情。そこで、アメリカにおける保険マーケットに対する調査業務の経験を有した滝田の派遣となったのです。が、ウォリスにとって、赤字原因調査のために滝田浩介を受け入れることは耐え難い苦痛。そのような状況下で、滝田浩介は、どのようにしてTCIの秘密のベールを解きはがしていくのでしょうか? 

 

マネーロンダリング・ビジネス

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