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『市役所なのにココまでするの?』 - 市役所職員、工業団地の活性化に挑む!

市役所で働いている人というと、多くの人にとっては、「おとなしい」「新しいことを好まない」「型にはまっている」といったイメージが浮かび上がるのではないでしょうか? 確かに、前例主義、予算主義が徹底している職場なので、事案に臨機応変に対応する余地は、民間企業と比べると、かなり制限されているかも知れません。しかし、「公僕」という言葉が一般的に使われていたかつての時代とは異なり、複雑化している社会の実情を反映して、市役所職員の業務も、多岐多様になっています。「こんなことまでやるのか」という言葉が出てくるほど、事情は変わってきているのです。そこで、今回は、市役所職員を素材にした作品を三回にわたって紹介します。

「市役所職員を扱った作品」の第一弾は、上野歩『市役所なのにココまでするの?』(双葉文庫、2020年)。綾瀬市産業振興部工業振興企業誘致課の活動がモデルになっています。神奈川県桑形市という架空の市が登場。工業団地を構成している多くの中小企業に対する支援活動の数々が市役所職員の立場から描かれています。

 

[おもしろさ] 前例主義の横行とそこから脱皮して得られるもの

本書では、二つの点に焦点を当てることができます。一つ目は、公務員の前例主義が依然として大きくはびこっている現状。二つ目は、そこから抜け出し、新たな仕事を「作り出そうとする」職員たちのチャレンジの困難性と達成感です。第一の点は、次の言葉に如実にあらわされています。「自分の希望の仕事どころか、仕事自体しにくいのが市役所という場所だ。前例を踏襲する既成路線ばかり。あらゆることが、去年がこうだったからで決まってしまう。なにか新しいことをやることができない場所なんだ。やめられないから新しいことができない。今やっていることをスクラップできないところなんだ」。第二の点は、そうした空気感のなかで大きな葛藤を余儀なくされるとはいえ、「市民のために役に立つ仕事をしたい」「市の発展に貢献したい」という思いを持った職員と、「世の中の人のために役立ちたい」という企業主たちとの関係が手探り状態のなかで徐々に構築されていく過程に示されていきます。さらに、企業主たちが考案したすばらしい「アイデア商品」の数々には驚かされます。

 

[あらすじ] 仕事は自分でつくる! 

大学で建築設計を学び、故郷である神奈川県桑形市の市役所に技術職で採用された天明未来。設計の仕事につきたいという希望を持っていた彼女が配属されたのは、工業振興企業誘致課(通称「市役所工場」)でした。戸惑いながらも、市内の工場を訪問するのですが、どこに行っても歓迎されません。市役所に対しては、「期待感の片鱗すら窺えなかった」のです。そうした壁に直面するなか、テンメー・ミキは持ち前の柔軟性と企画力で中小企業の経営者たちに食い込んでいきます。「仕事は自分でつくる」という言葉を胸にして! 

 

市役所なのにココまでするの!? (双葉文庫)

市役所なのにココまでするの!? (双葉文庫)