経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『残業禁止』 - ゼネコンが抱える今日的課題とそれへの対応! 

「ゼネコンを扱った作品」の第二弾は、荒木源『残業禁止』(角川文庫、2019年)です。ひとつの工事現場で、完成に至るまでの一連の業務がどのように進んでいくのか? その際、いかなる課題をクリアしていかなければならないのか? ゼネコンの現場監督を軸に、現場におけるサブコンとの関係、本社との関係など、さまざまな課題との向き合い方が明示されています。また、人手不足、働き方改革、残業時間の制限、労働基準法の順守といった今日的課題への対応を考える際、大いに参考にすべき作品に仕上げられています。

 

[おもしろさ] 労基法の主旨を遵守しながら、納期も守るためには? 

新しい労働基準法のもと、残業時間を事実上無制限に行うことで納期に間に合わせてきたそれまでの慣行を大きく修正していかなるをえなくなったゼネコンの本社や現場監督は、どのような行動を採るべきなのか? 労基法の主旨を遵守しながら、納期も守るという厳しい課題にどのように対処していくべきなのか? 本書は、そうした点を世に問いかけた作品です。

 

[あらすじ] 現場事務所長に降りかかる過酷な試練の連続

ゼネコン「ヤマジュウ建設」が「元請け」になっている「チェリーホテル・横浜ベイサイド」(地上15階、地下2階建て、総工費20億円超え)の新築工事。現場の事務所長になっているのは、46歳の成瀬和正。綱渡りのようにタイトなスケジュールに悩まされながらも、部下の現場監督(社員)たちとともに、大幅な残業を繰り返すことで、なんとか日々の仕事をこなしています。ある日、本社から、納期はそのままだが、新たに施行された新しい労働基準法に基づき、月平均80時間以内、最大でも百時間未満という制限を順守するようにという指示が出されます。頭を抱える成瀬。追い打ちをかけるような事態が次々発生します。施主の依頼に伴う突然の仕様変更、脳梗塞による副所長の戦線離脱、補充として送り込まれた、まったく使えない新人が引き起こすトラブル、近隣住民による執拗な苦情への対応など……。そして、送り込まれた社員の飛び降り自殺未遂の責任を問われ、成瀬は左遷。果たして、工事の行方は? 納期は?

 

残業禁止 (角川文庫)

残業禁止 (角川文庫)