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『県庁の星』 - 役人根性全開の県庁職員がスーパーを改革

「スーパーを扱った作品」の第三弾は、桂望実『県庁の星』(小学館、2005年)。役人根性全開の県庁のエリート職員・野村聡が、研修先である田舎のスーパーの構造改革を図っていくことに。2006年2月に公開された映画『県庁の星』(出演者は織田裕二さんと柴咲コウさん)の原作。

 

[おもしろさ] 「お前変わったな。そうか?だとしたら嬉しいよ」

「前向きに検討します」というのは、「実際はなにもしません」という意味。そのように考える県庁職員。研修先のスーパーに出向いても、客にうまく対応できません。「これを言ったら客はどう感じるかって、わかんない? 商売は習うものじゃなくて、客の気持ちを察することなの。ひとを喜ばせたいとか、楽しませたいと思ったことないでしょ」。こう諭されてしまうのです。「バカばっかりでさ。この三週間、バカに囲まれて、バカの相手をして。正直疲れるよ」と聡。ところが、物語の最後では、県庁の同僚の「お前……変わったな」という発言に対して、「そうか? だとしたら……嬉しいよ」と、答えるようになっていくのです。本書のおもしろさは、聡が徐々に変身し、店内改革の先頭にたって行動したあと、県庁に戻るまでの姿をリアルに描き出している点にあります。

 

[あらすじ] そこにはマニュアルも組織図もない

役人根性全開のある県庁のエリート・野村聡31歳が、「Y県職員人事交流研修者」として田舎のスーパー(従業員数72名、年商16億円程度)へ1年間の研修で派遣されることになります。「腐るけど、1年間我慢しよう。研修を終えて戻ってくれば、また一つ上のポストに就ける」といった、きわめて軽い心構えの聡。彼の教育担当になったのは、離婚暦のある一児の母・二宮泰子。「マニュアルも組織図もない」そのスーパーを事実上動かしている「裏店長」は、高卒で45歳のパートのおばさんにすぎない二宮その人でした。客への対応方法が分からず、なんでも杓子定規に考える傾向の強い野村は、スタッフからは「県庁さん」と呼ばれ、半分馬鹿にしたようにあしらわれていました。ところが、「スーパー=世間の現実」を目の当たりにした彼は、スーパーの「構造改革」のための意見書を提出。読んだ二宮の感想は、「この書類の通りになれば完全無欠の店になるのだろう。正しいよ。でも、この書類には人間がいない。客も従業員も存在していない。見えてないんだ、なにも」というもの。対して、「プラン、ドゥ、チェック。この三つの基本を絶えず行えば、改革は確実に進む。どんな職場でも有効なはずだ」というのが聡の信念。周りの人々も、野村の熱意に動かされ、徐々に、彼が巻き起こす渦の中に巻き込まれていきます。

 

県庁の星 (幻冬舎文庫)

県庁の星 (幻冬舎文庫)

  • 作者:桂 望実
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 文庫