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『南部芸能事務所』 - 弱小プロダクションに集う芸人たちの群像

「芸人を扱った作品」の第二弾は、畑野智美『南部芸能事務所』(講談社、2013年)です。「弱小お笑いプロダクション」の実情、そこに所属している芸人たち間での交流、彼らの心の動き、売れない芸人の下積み生活の実態、芸人が大好きで、追っかけをやっているファンの立場、大御所と称されているベテラン芸人などを描いた連作集。

 

[おもしろさ] 「バイト週五、芸人週二」

芸人になりたいと思った人の多くは、芸能事務所が運営する芸人の養成所に通ってレッスンを受けるようです。他方、本書に登場する弱小事務所では、たとえ研修生として受け入れてもらったとしても、誰も教えてくれません。時折先輩のアドバイスを受けるものの、もっぱら相方同士で課題を見つけて稽古を続けるというのが、一般的なパターン。単発のライブへの出演はたまのこと。所属芸人の圧倒的多数は、決まった収入は皆無に近く、「芸人ではなく、フリーター」と言いうる存在。「バイトが週五回、芸人が週二回」という言葉に示されるように、「気持ちの上では芸人に比重を置いているが、生活の上ではフリーターに比重が置かれている」のです。本書の特色は、芸能事務所をベースに、所属芸人、経営者、ファンという三つの層に焦点を合わせて、芸人の世界を立体的に描写しているところにあります。

 

[あらすじ] 偶然見ることになったお笑いライブに魅了されて

南部芸能事務所が主宰している「お笑いライブ」の劇場は、小さな雑居ビルの6階にあります。とても狭く、立見客も詰め込んで、せいぜい80名ぐらいしか入れません。大学二年生の新城が親友の橋本からの突然の誘いに乗ってそこへやってきたのは、ただ予定が入っていなかったという理由だけでした。ところが、その日のお笑いライブに魅了され、終った時には「芸人になりたい。あの舞台に立ちたい」と思い込むようになっていたのです。漫才に焦点を合わせ、「一緒にやっていく相方を探す」。それが、ライブ後に一晩かけて出した結論でした。芸能事務所の南部社長からは、相方候補の「溝口を口説き落としたら、研修生としてうちの事務所に入れてあげる」と諭されます。こうして、新城と溝口は、とりあえず1年間、コンビを組み、一緒にやっていくことに。

 

南部芸能事務所 (講談社文庫)

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南部芸能事務所 season2 メリーランド (講談社文庫)

南部芸能事務所 season2 メリーランド (講談社文庫)

  • 作者:畑野 智美
  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: 文庫
 
南部芸能事務所 season3 春の嵐 (講談社文庫)
 
南部芸能事務所 season5 コンビ (講談社文庫)

南部芸能事務所 season5 コンビ (講談社文庫)

  • 作者:畑野 智美
  • 発売日: 2019/10/16
  • メディア: 文庫