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『ほどなく、お別れです』 - 葬儀社という仕事の真髄と、葬式の本質

「『生と死』を扱った作品」の第二弾は、長月天音『ほどなく、お別れです』(小学館、2018年)です。清水美空には、美鳥という姉がいました。生まれる前に先立ってしまったのですが、夢の中では「幼い姿の姉」と何度も遭遇。そして、彼女によって守られているという気持ちとともに、「霊感」を感じる力を身に着けていたのです。そんな美空は、葬儀社の仕事を通じ、自らの能力を活用していきます。亡くなった人の心を理解し、残された人たちの気持ちに寄り添います。そして、「親身になって相手を思いやることのできる優しさ」で、悲しみを和らげる役割を果たしていくのです。葬儀社で働く人の仕事の真髄と、残された人とどのように接していくべきなのかという葬式の本質と触れ合うことができる作品です。「形だけの葬儀ではなく、死者にとっても遺族にとってもきちんと区切りとなる式を行う」ことこそ、葬儀社の務めなのです。

 

[おもしろさ] 葬式をコーディネートする人の苦労

葬式に参列した経験を有する人は、きわめて多いのですが、それを準備し、コーディネートする立場の人の苦労となると、なかなか想像できるものではありません。本書の特色は、まさに葬儀社の目線から見た葬式の流れ、葬祭ディレクターの役割、スタッフのサポートぶりなどが描かれている点にあります。

 

[あらすじ] 残された人の「悲しみを癒す手伝いをする」

東京スカイツリーのすぐ近くにある葬儀場「坂東会館」。清水美空は、3年前からホールスタッフのアルバイトをしています。大学4年生の秋であるにもかかわらず、就職先の決まっておらず、気力を失い、悶々とした毎日を過ごしていた美空。シュウカツのために休職していた彼女は、坂東会館の社員である赤坂陽子からの依頼を受けて、半年ぶりの仕事に就くことに。彼女が手伝うことになったのは、急遽実施されることとなった、焼身自殺した51歳の男性の密葬でした。担当するのは、漆原という若手の葬祭ディレクターと、彼の大学時代の友人である里見道生(光照寺の僧侶)。「自殺」と聞いたとき、美空の頭の中では、警戒のサイレンが鳴り響きました。「霊感」です。それは、「(死者を含めて、)他人の感情が煩わしいくらい伝わってきたり、その場に残っている思念を感じてしまったりする」という特別な「能力」でした。やがて、美空は、漆原や、自分と同じ能力を持っている里見との会話を通して、「悲しみを癒す手伝いをする」という葬儀社の大切な役割に気づいていくことになります。