経済小説イチケンブログ

経済小説案内人が切り開く経済小説の世界

『ジバク』 - 「人生の勝ち組」から「どん底」への転落

「転落を扱った作品」の第二弾は、山田宗樹『ジバク』(幻冬舎、2008年)です。優秀なファンドマネージャーであった主人公が、高校時代のクラス会で憧れていた女性と再会したことを契機に、「転落人生」を転げ落ちていくことになります。地獄のどん底まで落ちた男が最後に見た「希望の光」とは、なんだと思いますか? 

 

[おもしろさ] ひとつひとつの行為の積み重ねで

本書のおもしろさは、本当にちょっとしたきっかけで、人生が暗転していくという「現実」を垣間見させてくれる点にあります。けっして飛躍するのではなく、ひとつひとつのちょっとした行為の積み重ねで事態が悪化していく。そんな様子がまざまざまと読者に突き付けられていきます。

 

[あらすじ] 地獄へのプロローグ

大学を出て大手都銀で働いた後、腕を磨いて生き延び、いまは外資投資銀行ファンドマネージャーを務めている麻生貴志42歳。年収は2000万円。他方、美しい妻・志緒理は、金持ちの男性と結婚し、「セレブって呼ばれる」ことを夢見る女性でした。彼女の希望で、1億4000万円のマンションを購入する予定。自らを「人生の勝ち組」と自認していた貴志は、郷里の群馬県富岡市で20年ぶりに開催された高校時代のクラス会で、かつて憧れた女性・春日井ミチルと再会。彼女は、バツイチで、スナックを経営していました。彼女に振られた過去を持つ彼は、現在の自分の力を誇示したいという思いだけから、彼女に「これから必ず上がる銘柄」を教えることに。大金を手にしたミチルを見て、快感・征服感を味わいます。ところが、貴志のもとに、「彼とミチルの密会」の場面を写した写真が送られてきます。それは、脅迫→解雇→志緒理との離婚へとつながっていく、「地獄へのプロローグ」だったのです。未公開株の電話セールスを経験したあと、保険金目的でアパートに火をつけられて殺されかけたり、交通誘導員として働いている際に、事故で片足を切断されたりするという不幸な出来事に遭遇します。