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『リストラ屋』 - 強欲な「コストカッター」に挑む

「カラ売り屋を扱った作品」の第二弾は、黒木亮『リストラ屋』(講談社、2009年)。パンゲアと北川靖による「カラ売り屋」シリーズ二作目に当たる作品。スポーツ用品メーカーの新しい経営者として招聘された人物は、人とコストをギリギリの極限状態まで減らし、高額な報酬を受け取って去ったあとで後継の経営者にそのツケを回すというひどい人物。そんなクズのような経営者を対象とするパンゲアの戦いが描かれています。「無味乾燥な数字の羅列の中から真実を探り当てる」というカラ売り屋の醍醐味にも言及されています。

 

[おもしろさ] 投資家たちに公正な情報を提供者する

本書の魅力は、第一に、強欲なコストカッターがトップに君臨することで、いかに企業を疲弊させていくのか、第二に、そうした企業をターゲットにしたカラ売り屋の攻撃がいかに用意周到なものなのかを描いた点にあります。「市場の闇の中に棲息する得体の知れない連中」というイメージで想像されやすいのがカラ売り屋。ところが、実際には、悪しき企業の問題点に目をつぶって、株価をあおることもあるウォール街のアナリストたちに代わって、投資家たちに透明性が高く、公正な情報を提供するという「カラ売り屋」の大きな役割についても指摘されているのです。

 

[あらすじ] 新しく招聘された社長は「とんだクズ野郎」

資金は2400万ドルまで膨れ上がり、3年前にオフィスをブルックリンからミッドタウンの高層ビルに移転したパンゲア。目をつけたのは、業績不振で、ボストン・インベストメンツに買収された、東証一部上場企業の極東スポーツでした。新たに経営者となったのは、徹底した「リストラ屋」の蛭田明(46歳)。2年ほど前に、家電メーカー「ニッシン電器」を再建し、大手家電メーカーに売却した人物です。蛭田の手法は、北川の目には、「経営なんてもんじゃない。人とコストを減らせるだけ減らして会社をぎりぎりの極限状態におき、徹底的に従業員を酷使するだけ」のものとして写ります。高額報酬を受け取って去ったあとの後継経営者にツケを回す「とんだクズ野郎」でしかありません。予想通り、現場や従業員の意向をすべて無視した、徹底したリストラが強行されます。日常の業務もガタガタになり始めます。新興国向けの新製品を販売するも、粗悪品で欠陥品だらけ。追いつめられる蛭田。しかし、そのとき、イタリアの有名スポーツメーカー「ザネッティ社」による極東スポーツの買収話のニュースが公表されます。「ターゲット企業が買収されるのは、カラ売り屋にとって最悪の事態」です。株価は急騰し、危機に陥るパンゲア……。