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『戦うハニー』 - 新米男性保育士の奮闘記

子どもが生まれても働き続けたい。安心して子ども預ける場があれば、仕事を辞めたくない……。そのように考えている人は極めて多いようです。ところが、預けられる保育施設がなかなか見つかりません。保育施設には、定員数や保育士の配置基準があり、子どもの受け入れ数には限りがあります。その結果、待機児童の数がどんどん増え、いまでは大きな社会問題のひとつになっています。保育士は、将来なりたい職業のランキングでは結構上位に入っており、その数は徐々に増加しています。しかし、離職率が高く、保育需要の増加に見合った保育士の確保が追い付かなくなっているのです。では、多くの人がなりたいと考えている保育士の離職率がなぜ高いのでしょうか? 今回は、保育士という仕事の「夢と現実」を知ることができるお仕事小説を二つ紹介したいと思います。

「保育士を扱った作品」の第一弾は、新野剛志『戦うハニー』(角川書店、2016年)。かわいい未就学児と接し、その成長を支援する仕事につけたことの喜び。保護者からの理不尽なクレームや非常識な態度に戸惑ったり、悩んだりしながらも、成長していく新米保育士の姿が描かれています。現役の保育士や保育士志願の人には、良いテキストになるでしょう! 

 

[おもしろさ] クレーム・クレーム・クレーム

保育園で木登りを経験させると、「どこか知らないところで木登りをしてケガをしても、保育園が教えたからだ。責任をとれ」というクレームが。こどもの日に、プレゼント交換を伴うようなイベントを企画しようとすると、「みんながプレゼントをもらえるわけじゃない。変なこと教えないでくれ」というクレームも。「遠足に連れていってあげたいけれども、朝、お弁当を作れない親が多い」。だから、一日かけての遠足を計画しようものなら、さまざまなクレームが……。本書では、園児の保護者から保育士・保育園に寄せられるクレームの数々と、そうしたクレームに対する対応の仕方がリアルに描写されています。

 

[あらすじ] 問題のある家庭の子どもたちが……

大手の生保を退職した28歳の星野親。子供のころからの夢であった保育士として働き始めます。勤務先は、埼玉県彩咲市にある私立の無認可保育園「みつばち園」。市の保育士採用試験を受けるので、その準備をしながら1年間ということで雇われたのです。同園始まって以来の男性保育士。60歳前後の井鳩園長のもと、50歳代の三本木和歌副園長、同い年の酒井景子、保育士3年目の辻あかりという正職員のほか、パートできている主婦の村上宏美と給食を作る西原康子が働いています。園児の数は24名。「あそこならなんとかしてくれるだろう」ということで、市役所のほうから、問題のある家庭の子どもがどんどんまわされてくるようです。例えば、パチンコに夢中になって他人に子どもの迎えを頼んでしまう親、連絡帳に園児の様子を書き込んでもまったく読まない親、精神的に不安定で子どもを虐待やネグレクトの対象にしてしまう親、注意されたり間違いを指摘されたりするのを極端に嫌がる親など。「家庭保育室」と「認可外保育所」を併設している「家庭外混合保育」であるにもかかわらず、施設も保育士も完全に分けられていないという運営形態を市から問題視され、みつばち園は存亡の危機に立たされることに。