「旅館を扱った作品」の第二弾は、田中伸治『会社再生ガール』(青月社、2010年)。再建という美名のもと旅館の転売で大儲けをしようとするコンサルティング会社と、それに対抗して旅館の存続を図ろうとするコンサルティング会社との攻防劇が描かれています。企業再生コンサルタントの手で書かれたビジネス小説です。解説書やノウハウ本ではなく、小説の形にしたのは、「会社再生の実務をよりわかりやすく解説する」ためとか。
[おもしろさ] 企業再生の手法と考え方
過剰な債務に苦しんでいるのは、温泉旅館「相州御宿山本屋」。江戸時代から11代も続いてきた老舗なのですが、いまやクーポンサイトが多く、「価格もたたき売り」の状態。「温泉と料理だけではやっていけない」ようです。危機に瀕した山本屋の再生には、守るべき資産を分離するために、「新会社を設立してそこに守る資産を売却する。新会社で銀行から融資を確保して山本屋から温泉二号館(収支がトントン)とペンション二棟(売り上げが安定している)を買い取る」という手法が採用されます。本書の特色は、再生計画がどのような形で着手され、いかなるステップを踏んで段階的に進められていくのか、また当事者の考え方に応じてそのやり方がどのように変わってくるのかを具体的に明らかにしている点にあります。
[あらすじ] 旅館やホテルを食いものにする「整理屋」
会社の再生案件の打ち合わせで小田原を訪れたのは、「アダム・コンサルティング」(社員数100名)で企業再生プランナーを務めている相馬明日美と同期のパートナー・米田篤。「せっかく小田原まで来たからには」ということで、明日美の大学時代の後輩である山本義清の父親(義雄)が経営する老舗旅館の山本屋に滞在することになります。同旅館の経営難を察した明日美は、「温泉1年フリーパスと宿泊料50%オフ」という条件で再生プランナーとして力を貸そうと提案。アダムの企業再生理念は、「会社と同時にその経営者の再生を実践すること」です。他方、同旅館の顧問弁護士である柚木は、執拗に自己破産を薦めます。その背後には、謎の人物・不破雨月が率いる不破経営研究所という得体の知れないコンサルティング会社の思惑が潜んでいました。不破経営研究所は、クライアントを破たんさせ、旅館やホテルを安値で買取り、投資ファンドや大手ホテルチェーンに転売する手法で荒稼ぎをする「整理屋」だったのです。そして、山本屋を食いものにしようとする不破経営研究所がリードする形で事態が進展していくことになります。しかし、「山本屋を救いたい」と、明日美の反撃が……。