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『今日から仲居になります』 - 老舗旅館で出会う「おもてなし」

「旅館を扱った作品」の第三弾は、中居真麻『今日から仲居になります』(PHP研究所、2016年)。老舗旅館を舞台にした新人仲居の奮闘記。仲居・旅館業を扱ったお仕事小説でもあります。「本物のおもてなし」とはなにか! 「この世界に楽な仕事はない。だけどこの世界には、『好き』と言える仕事が、ちゃんとあるはずだ」。「仕事の極意」が凝縮されて詰め込まれています! 

 

[おもしろさ] セリフが綴る「仕事の極意」

「仕事の極意」を痛感させられる登場人物によるセリフが満載です。いくつか紹介しましょう。いまの会社の仕事は、「楽しくないんです。わたしはもっとほかに、自分の感性にわくわくと響くような仕事、自分の魂が、心底喜ぶような仕事がしたいんです」。「ここで働く以上は、ひとに喜びを与えるということはどういうことであるのか、死ぬ気で考えておくれやす」。「自分の選択を後悔する暇があったら、後悔が消えるくらい、それに立ち向かえばいい」。仕事って、「恋愛と一緒だ。出会い方じゃなくて、向き合い方。そう、いかに熱をもって『向かい合うか』だ」。「お客さまが喜んで帰られることが一番やけん。いろいろなお客さまがいはるからこそ、この仕事は追及すると楽しいんよ」。「人間はね。なんでも十年というのが一区切りなの。だから、やって続けようと思うものは、とりあえず、十年がんばってみるべきよ」。絶対に間違いがないことがひとつだけあります。それは、「お客さまを愛すること」。

 

[あらすじ] 働きながら見出していく「働くことの意味」! 

坂瀬川虹子(22歳)には、父がいません。高校卒業後、自分が何をしたいのかがわからないまま、京都市内にある飛行機部品の生産管理を行っている会社に勤務。しかし、単純で指示されただけを行うという事務仕事にやりがいを見出せませんでした。ある日のこと、上司の送別会で訪れた「かぐら屋」という高級老舗旅館のサービスに感動し、そこで働くことを決意します。そして、仲居になった虹子は、口うるさて気難しい料理評論家や長期滞在するわがままな脚本家など、一筋縄ではいかないお客様と接するなかで「働くことの意味」を見出していきます。最後に心温まるラストシーンが用意されています。