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『ある晴れた日に、墓じまい』 - イマドキのお墓事情

「後を継いでくれる子どもがいない」「先祖代々のお墓が遠方にあり、なかなか墓参りに行けない」「維持・管理の負担が大きい」「子や孫に負担を負わせたくない」……。少子・高齢化、核家族化、地方の過疎化などの進展に伴い、「墓じまい」を選択する人が増えています。墓じまいとは、お墓を解体して更地にすること。実際には、そのあとに元のお墓から出した遺骨を別の墓地もしくは永代供養墓地などに移して供養する「改葬」という意味も含まれています。今回は、「墓じまい」を切り口にして、昨今のお墓事情を描いた作品を二つ紹介します。

「お墓を扱った作品」の第一弾は、堀川アサコ『ある晴れた日に、墓じまい』(角川文庫、2020年)。古書店「時書房」の経営を20年近く続けている赤石正美44歳が主人公。イマドキのお墓事情、墓じまいに関する当事者・関係者の考え方・反応、必要な一連の手続きや諸費用などについて幅広く知ることができます。墓じまいを考えている人には、大いに参考となります。また、古本屋の仕事について垣間見ることができるお仕事小説の要素も含まれています。

 

[おもしろさ] 「亡き人たちの転居にほかならない」

先述したように、墓じまいにあっては、単にお墓の解体のみならず、その後、先祖や親の遺骨をどのように扱うのかを決めておかなければなりません。具体的には、永代供養墓地に移す場合、室内墓苑にするのか、それとも樹木葬や散骨を選ぶのか、また、他家の遺骨と一緒に埋葬する合祀型、各家ごとに遺骨を埋葬する集合型、個人のみの墓にする個別型のどれを選択するのかを選ぶ必要があるのです。墓じまいを希望する人は、そうした全体的なイメージを持っておくことが求められます。さらには、墓や仏壇を受け継ぐ人を意味する「祭祀継承者」の決定や、墓地使用権の交代を管理者(寺など)に届け出ることから始まる一連の手続き、その際に発生する諸費用などについても、理解しておくことも大切です。そうした一連の流れが詳しく解説されているのが、本書の特色と言えるでしょう。墓じまいとは、つまりは「引っ越しなのだ。生者が住所を変えるのと同じく、亡き人たちの転居にほかならない」。先祖代々の遺骨を都内の民営霊園にある樹木葬の墓(集合型)に埋葬したときの赤石正美の言葉が印象的です。

 

[あらすじ] 「バカなことをいうな、バカ者」という反応も

赤石正美は、乳がんを患い、自分の将来に大きな不安を抱いたのを契機に、「墓じまい」を決心します。母は亡く、小児科医の父・赤石洋造も高齢。性格に難があるため、患者が寄り付かず、開業医のイメージとは程遠く、けっして裕福ではありません。区役所に勤務している元夫の遠藤達也との間に、子どもはいません。姉の君枝はダウン症障がい者施設で暮らしています。父親とは大喧嘩の末、20歳のときに家出をしてしまった兄の正行。札幌で内装工事の会社を経営しているのですが、経営状態は極めて悪く、実家との連絡がほぼ途絶えた状態です。そのような状況なので、正美は、自分になにかあったとき、墓守りがおらず、無縁仏になってしまうことを危惧したのです。が、父に墓じまいの件を相談しようとするものの、「バカなことをいうな、バカ者」と怒鳴られてしまいます。しかし、その父が亡くなってしまうと、今度は、父の「愛人」疑惑が発覚したり、遺産分けが一切なかった兄夫婦との間で亀裂が起こったりすることに。お墓じまいが一段落するまでには、いろんなことが起こり、なかなかすんなりとはいかないようですね……。