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『ハゲタカ』 - 外資は日本企業を食い物にするハゲタカか? 

経済のグローバル化が進んだ1990年代、外国の資本が日本に大挙して押し寄せました。多くの企業が外資系企業によって買収されました。その結果、外資という存在が大きくクローズアップ。が、その実態は依然としてベールの中です。外資系企業で働いている人たちについても、日本企業とは少し違った、なにか特別なイメージを重ね合わせて見てしまう傾向があるようです。では、日本企業とはどこが同じで、どこが違うのでしょうか? 今回は、外資を扱った作品を三つ紹介したいと思います。

外資を扱った作品」の第一弾は、真山仁『ハゲタカ』(上下巻、ダイヤモンド社、2004年)。バブル崩壊後の「失われた時代」と称された時期、瀕死の状態に陥った日本企業に手を差し伸べた外資。果たして、日本企業を食い物にする「ハゲタカ」か、それとも新しいビジネスモデルを導入する「救世主」なのか? 本書は、そうした疑問に真っ向から挑んだ大作です。1997年~2004年を舞台にした『ハゲタカ』は、その後、2004年~2006年を舞台にした『バイアウト』、2007年~2008年を舞台にした『レッドゾーン』、2005年~2008年を舞台にした『グリード』といった続編が刊行され、シリーズ化されていきます。一方、2017年2月~3月にかけてNHK土曜ドラマで放映されたあと、2009年には、大友啓史監督、大森南朋主演で映画にもなります。そして、2018年7月スタートのドラマとして、テレビ朝日でも放映。主人公の鷲津政彦を演じた綾野剛さんの凄みのある表情と声がいまでも私の心に深く刻まれています。

 

[おもしろさ] 外資をうまく活用するしたたかさ! 

世界的な投資ファンドの日本法人ホライズン・キャピタルの代表者である鷲津政彦、元三葉銀行員で、日本屈指のターンアラウンド・マネージャー(企業再生家)をめざす芝野健夫、日本初のリゾートホテルである日光ミカドホテルの後継者となる松平貴子の三人が織り成す一大物語。貴子の経営するミカドホテルの再生にも協力する鷲津。貴子は言います。「今の日本には、リスクをとって資金を貸してくれるところは、ほとんどない。ならば、ハゲタカのお金を利用して、自分達の危機を救えばいい。お金に色はない。大切なのは、きっちり結果を出すことです。そうすれば、私達は、ハゲタカに食い荒らさせたのではなく、ハゲタカを利用した勝利者になれる…」と。それを受け、芝野が答えます。「これからの日本で、必要なのは、そうした逞しさであり、名よりも実を取る勇気です」と。問題の本質は、外資の思惑そのものではありません。大事な点は、日本の古い体質を修正し、カモにされない姿勢・態勢を整え、さらには新しいビジネスの手法を創造していくことなのです。

 

[あらすじ] 世間の偏見や非難に屈せずにわが道を行く鷲津! 

ニューヨークでジャズピアニストになる夢を捨て、投資ファンドの道を選んだ鷲津政彦。わずか1年で、「イーグル」と呼ばれるハゲタカ投資家として頭角をあらわします。日本に進出した鷲津が最初に手がけたのは、三葉銀行の不良債権の一括処理(バルクセール)。簿価総額723億円余りの不良債権を7億円ちょっとで買い取り、3日後には234億円で転売する。これだけを考えるならば、まさに「ぼったくり」です。ハゲタカと非難されても仕方がないかもしれません。しかし、そのおかげで、三葉銀行はバランスシートから720億円余りの負の遺産清算することができたこともまた事実。そもそも、転売が可能になったのは、鷲津が精緻な情報のネットワークを駆使できたためなのです。そんな鷲津が本当にやりたいことは、あくまでも企業再生ビジネス。「本物のハゲタカは、潰れかけた会社の株式を安く買い集め、その会社をバリューアップして、成功報酬を得る」というわけです。「ハゲタカ」という世間の偏見や非難にも屈せず、鷲津は、企業再生ビジネスを進めていきます。

 

 

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