「外資を扱った作品」の第二弾は、泉ハナ『外資のオキテ』(角川文庫、2018年)です。外資系企業で働くことを夢見てきた女性が実際に働いてみて経験することになる出来事がリアルに描写されています。就職先を斡旋する派遣会社とのあるべき関係についても考えさせられるコンテンツになっています。
[おもしろさ] 日本企業との共通点と相違点
外資系企業で働くことは、けっして特別なことではありません。日本企業と同じで、「責任と義務をきちんと担い、やるべきことをやる」。言うべきことをはっきりと伝え、相手の意見もしっかり聞くという態度も不可欠。きちんとした人は、どこの国に行っても評価される。この本から伝わってくる結論的な読後感は、そのあたりにあるのではないでしょうか。確かに、高度な英語力は必要です。しかし、「外資系企業といっても日本で仕事をします。当然、取引先の多くは日本企業ですし、日本人が相手となります。ですから、日本におけるビジネスに必要な知識や情報をきちんと理解していて、ビジネスマナーを身に付けている、仕事の基本ができていることが、実はとても重要なのです」。もちろん、日本企業と異なる点がないわけではありません。例えば、「会社は仕事をする場所だ。誰と仲良くするとか、誰が好きじゃないとか、上司が嫌な奴だとか、誰が格好いいとか、そういうことを考えたり、言いあったりする場所じゃない。誰かの機嫌を伺ったり、誰かの思惑を推し量ったり、それを一番重要なものにしてはいけない」場所なのです。
[あらすじ] 「自信満々になっていた愚かな自分」からの脱皮
英語を使う仕事に憧れていた高村貴美子。新卒で、長谷川電気工業に入社。が、古い体質と、言われたことだけをやっていればいいという仕事内容には違和感を感じていました。27歳のときに会社を辞め、カリフォルニアにある大学に併設された語学学校で1年間勉強し、TOEICの点数を870点に。帰国後、就職活動をスタートさせますが、どの会社からも良い返事をもらえないでいました。ある日、外資系企業への就職先の斡旋を業務としている人材紹介会社「ゴードン・ジャパン」で鈴木という女性と面談。彼女いわく。「外資系企業では、語学留学は留学とは言いません。留学と言った場合、少なくとも大学、もしくは大学院で単位を取得した、あるいは卒業したことを指します」と。ざぁーっと血の気が引くのを感じる貴美子。でも同時に、評価できるのは、きちんとしたレジメに示されるように、大手日本企業で長くしっかりと仕事されていたという事実にあることを伝えられます。そこで提案されたのは、正社員になるのは難しいので、「まず、派遣のポジションでお仕事を始めて、少しずついろいろなことを身につけて、そこからステップアップしていかれるのはどうでしょうか」というものでした。やがて、ゴードン・ジャパンから「トランスバイル社のオフィス閉鎖に伴う、サポートの仕事になります。英語の使用はほとんどありません」というオファーを受けます。こうして、外資系企業における貴美子のキャリアがスタートします。「少し英語ができるようになったからといって、自信満々になっていた愚かな自分。アメリカに1年いたことを、とてもすごいことだと信じ切っていた自分」を思い出すと、恥ずかしさと悔しさで逃げ出したくなるけれど、そこから一歩踏み出すために今があると思いながら……。ただ、トランスバイル社での仕事は、想像していた華やかさとは無縁の世界でした。その後も、モンゴメリー生命、シュットラー社といった外資系企業での仕事を経験。「嫌なことも、つらかったことも、自分の中に堆積して、大事な経験になる」と信じつつ、少しずつ仕事の本質に気づいていいます。