「EVを扱った作品」の第二弾は、高嶋哲夫『EV(イブ)』(角川春樹事務所、2021年)。とても恐ろしい本です。ホラー小説ではありません。世界の自動車業界における「死闘」の最前線を描いた作品です。もしハイブリッドカーが環境対応車として将来的に認められないという事態が世界的に発生したら、それに依拠しながら次世代自動車への対応策を考えている日本の自動車業界は、壊滅的な事態に直面することになりかねません!
[おもしろさ] 日本の自動車産業の競争力を回復させる戦略・方策とは?
本書の特色は、第一に日本自動車産業崩壊の危機に対して警鐘を鳴らしている点、第二に崩壊の危機を阻止し、日本の自動車産業の競争力を回復させる戦略・方策について提示している点にあります。その意味では、日本の自動車業界に対する警告の書であり、再生の筋道を示した必読の書でもあると言うことができます。
[あらすじ] 「日本が絶対に負けられない戦争」
経済産業省の製造産業局自動車課に籍を置く瀬戸崎啓介32歳。「日本企業を護り、最良の道に導くのが政府、経産省の役割」と考える彼は、早急にハイブリッドカーを捨て去り、EV化に全力投入し、新たな条件整備にいち早く着手することこそが、壊滅的な打撃を与えない唯一の道であることを主張します。「日本が絶対に負けられない戦争」と自らに言い聞かせる瀬戸崎。しかし、ハイブリッドカーへのニーズが将来的にも続くと考える自動車メーカーと関連企業は猛反対。政治家たちの大半も冷ややかな目線でしか考えようとしません……。瀬戸崎の主張は、「多くの者が思っているが、口には出せない。タブーの領域に踏み込んだ」ものだったのです。しかし、四面楚歌であった彼の周りに、徐々にではあるものの、一抹の希望の光が灯され、大きな動きとして結実していきます。