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『こっちへお入り』 - 落語と仕事の組み合わせでバランスがとれる

「落語を扱った作品」の第二弾は、平安寿子『こっちへお入り』(祥伝社文庫、2010年)。落語の世界にのめり込むことで、仕事上のストレスが解消されていくことを見出した33歳の独身OL。忘れかけていた他人へのやさしさと、なにかに夢中になる情熱を徐々に取り戻していきます。

 

[おもしろさ] 仕事上のストレスを落語が解消してくれる! 

本書の特色は、プロの落語家以外の人にとって、落語の魅力がいかなるものなのかを描いている点にあります。一つ目は落語に熱中することで、仕事上のストレスから解放されること。「確固たる自分がないことを負い目に思っていたが、そんなことで悩む必要はないんだ。みんな、そんなものなんだから」。二つ目は人生勉強になることです。「何かをやって得る自己満足は、何もせずに他人を批判することで優位に立とうとするお手軽な自己欺瞞より、何千倍もましではないか?」。「落語って、対立する人物っていうのが必ず出てくるから、やってるうちに反対側の見方が自然に身につくんだ」。

 

[あらすじ] ひょんなことから始めた素人落語にのめりこんで

中堅飲料メーカーに勤務する33歳の独身OL・吉田江利。お稽古ごとにも挑戦してみたのですが、いつも挫折。時代の流れのなかで、女性社員も意見を通せるようになってきており、江利もそれなりに昇進。仕事には張り合いがあるものの、ストレスも増えてきています。すさんだ心を癒してくれたのは、往年の噺家たち。そして、彼女はひょんなことから素人落語にのめりこんでいきます。アマチュアとはいえ、福祉施設、病院慰問、市民グループのイベントなどへの出演依頼が結構くるのです。こうして落語の世界に入り込んだOLの物語。