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『金曜日の本屋さん』 - 「読みたい本が見つかる本屋」とは? 

「書店を扱った作品」の第二弾は、名取佐和子『金曜日の本屋さん』(ハルキ文庫、2016年)です。北関東の小さな駅の中にあり、喫茶コーナーと巨大な地下倉庫を有している書店「金曜堂」。そこを舞台に、底抜けに明るい店長の南槇乃、ド派手な服装と態度のオーナー・和久靖幸、黒髪碧眼のイケメン店員・栖川鉱、それに新米のアルバイト・倉井史弥といった店員たちとその顧客が繰り広げる心温まる物語。本の魅力や書店員の仕事を知ることができるお仕事小説でもあります。

 

[おもしろさ] 客に寄り添う優しい気持ち+本に関する豊かな知識

本書では、金曜堂のユニークさがトコトン浮き彫りにされています。いくつか紹介しますと、第一に、南槇乃店長が「探している本」を必ず見つけてくれること。それが可能になるためには、地下に膨大な書籍を保管しておける書庫と、客の抱えている悩み事に寄り添うという優しい気持ちに加えて、本に関する豊かな知識を有した店長・店員の存在が欠かせません。第二に、金曜堂は、客に本を売るだけではなく、スペースを提供する「喫茶コーナー」を併設していること。そして、客の有志がそこを活用し不定期に朗読会や講演会や読書会を行っていること。第三に、喫茶コーナーの棚には、売り物ではない本がたくさん並べられていて、自由に読むことができるようになっていること。第四に、近くにある野原高校の行事や生徒たちのニーズに合わせたフェアを折に触れて開催していることなどです。

 

[あらすじ] 「読みたい本が見つかる本屋」との出会い

大学生の倉井史弥は、業界最大手の書店である知海書房の御曹司。「人とのリアルな付き合いの中で自分を出すのが苦手で、誰かの眼鏡を通してしか、世界を味わえていない」。どんなジャンルの本でも貪欲に読んでいく父とは異なって、本が提供する「知識の海」に溺れてしまいそうになるので、本から遠ざかっています。とても父の後継者にはなれません。そのように考えています。病床の父からは、以前借りた本を返すように言われていたのですが、その本は、すでに手元にはありません。ある日、「読みたい本が見つかる本屋」というネット上の噂をもとに、金曜堂のある野原駅にやってきました。店内に足を踏み入れ、陳列されている本を見回した史弥。探していた本を見つけることはできませんでした。「よかったら、私が探してみましょうか?」と槇乃。探しているのは、父が読みたがっている庄司薫の『白鳥の歌なんか聞こえない』という本でした。史弥は、槇乃に先導されて、かつて「地下鉄のホーム」として建造され、いまでは地下の書庫として使われている場所に案内されます。そして、新潮文庫版から出ている『白鳥の歌なんか聞こえない』を渡し、「倉井君が読めば、その本はお父様の読みたい本になりますね」と述べるのです。ずっと探していた本をやっと見つけることができた史弥は、それが縁となり、金曜堂でアルバイトをすることに。