「書店を扱った作品」の第三弾は、小島俊一『会社を潰すな!』(PHP文庫、2019年)。金沢市を中心に6店舗を展開するものの、倒産の危機に直面している本屋「クイーンズブックス」に出向を命じられた銀行マンがその再生のために奮闘します。著者の小島は、実際に書店の経営を再建させた経歴の持ち主。臨場感と説得力に満ちた作品に仕上げられています。本屋が危機に陥ってしまった原因についても言及されています。
[おもしろさ] 本屋の再生を促すための具体的な諸方策
本書の魅力は、メインバンクから舞い降りた「招かざる客」が、それぞれの店の実情、店長の特性、立地条件に合致した形で改革案を提示し、周囲の懸念や反対と抗しながらも、着実に改革を図っていく姿の描写にあります。では、どのような施策が挙げられているのでしょうか? 具体例を挙げてみると、①コンビニチェーンとの共同出店の店舗構築(小松店)、②近隣の競合店との差別化を図るために文具と雑貨を強化し、本の品ぞろえも中高生とニューファミリーに絞ったものにしていくという編成替え(白山店)、③すべての本・雑誌・関連する商品の陳列を店の都合ではなく、「はぐくむ」「こころとからだ」「暮らす」「食べる」といった「生活者の視点」で見直した形に変更する「生活提案型」店舗の構築(桜田店)、④店舗内の空きスペースにおける近隣農家の農作物販売コーナーの設置、⑤障がい者たちが働いている施設で造られた作品を展示販売するコーナーの設置など。いずれも、本屋のみならず、より広く小売業の再生に役立つヒントやアイデアにもなりえるのではないでしょうか?
[あらすじ] 「本屋は特殊」という思い込みを越えていかないと!
金沢銀行桜町支店の前支店長・鏑木健一は、上司からクイーンズブックスという書店に専務取締役として出向することを言い渡されます。クイーンズブックスは、かつて「お客様第一主義」を標榜し、文具や雑貨やCDのレンタルなどを早くから取り入れ、10店舗まで拡大。「時代の寵児」とさえ言われたことがありました。ところが、いまでは金沢市内を中心に6店舗を残すのみ。「どこにでも見かける規模で、これといった特徴もない」本屋になっていたのです。同社に出勤した鏑木を待ち受けていたのは、経営というものにまったく無知な女性社長と鏑木を敵視する6人の店長でした。彼らの考え方を特徴づけるのは、「本屋というのは特殊な業界」であり、差別化が図りにくいという認識にほかなりません。なぜならば、「販売価格が決められている再販制度」「仕入れ先である取次(本の問屋)に仕入れた原価で返品できる委託制度」といった制度は、ほかの業界にはないものだからです。それに対して、鏑木は、それらは一般的な商取引の派生形のひとつにすぎないと考えています。彼は、社長に会計・経営の基礎知識をレッスンするとともに、各店舗と店長の実情を把握することから行動を開始します。そして、「投げ出してしまいたい」という弱音と闘い、「潰してたまるか!」と自らを奮い立たせながらも、じっくりと時間をかけて、それぞれの店の状況・立地に合った改革のためのアイデアを提示し、クイーンズブックスを大きく変えていきます。