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『三ツ星商事グルメ課のおいしい仕事』 - 隠された同課の意外なミッションとは? 

「商社を扱った作品」の第四弾は、百波秋丸『三ツ星商事グルメ課のおいしい仕事』(メディアワークス文庫、2014年)です。会社の経費で「不要な食事」を繰り返していると勘ぐられている総務部グループリソースメンテナンス課(グルメ課)。ところが、そこには隠されたミッションがあったのです。それは、同課員が問題を抱えている社員をゲストに招いて食事会を開くことで、解決策を示そうというものだったのです。総合商社の業務の多様さを垣間見ることができる作品に仕上げられています。

 

[おもしろさ] こんな活動にも手を広げています! 

本書の特色は、グルメ課の仕事を通じて総合商社の実に多様な業務の最前線に接することができる点にあります。一例を挙げましょう。「安く仕入れて高く売る」だけじゃなく、「付加価値を付けて売る」。それをめざして、入社2年目の女性社員・松江奈央が提案したのが、「原宿ファッションフェスティバル」に合わせたイベントの企画。しかし、課長の方は、その案をまともに検討しようとはしません。「ごまかし、はぐらかし、煙に巻こうとする」意図が見え隠れしたことで、松江奈央の苛立ちと不満は高まっていきます。そんな彼女の気持ちを受け止めて、実情を調べ上げたグルメ課員たち。彼女を燻製のお店に招いて食事会を設定。明らかにされたのは、その課長は、彼女の企画が擁護し、なんとか実現させるために、周囲を煙に巻きながらも孤軍奮闘していたという事実でした。そのような形で社員の悩みを解決していく「グルメ課」の面々のやり方を紹介するなかで、こんなことにも仕事を広げているのかという総合商社の具体的な活動の数々が興味深く描写されています。

 

[あらすじ] 「スパイ」役を命じられた新米女性社員

「一口チョコから豪華客船まで、何でも扱う創業70年くらいの総合商社」である三ツ星商事。5年前、当時の社長であった京月によって新設されたのが、総務部グループリソースメンテナンス課でした。その表向きはプリンター用紙やクリップ、ペンといった備品の調達、会議室の予約、アメニティグッズの取り寄せ、名刺の発注など、グループ全体の資源管理(リソースメンテナンス)が主な仕事。が、部長連中の間では、毎夜、会社のお金を使って「タダ飯食らい」を行っているとウワサされていたのです。皮肉の意味を込めて「総務部グルメ課」という蔑称が与えられているのはそのためです。その真相を暴き、同課を潰そうと画策する久保田経理部長。入社1年目の新米経理部員である山崎ひなのに1ケ月限定で異動を命じます。いわば「スパイ」になれという申しつけでした。案の定、ひなのが目撃したのは、「他の部署の人間を巻き込んで、会議の名目で浪費とも取れる食事をしている」という事実。ところが、よくよく観察してみると、彼女は、そこに「意外なお仕事」が隠されていることに気づくようになっていきます。それは、一流の味を堪能しながら、問題を抱える社員とじっくり向き合うことで、問題を解決していこうとする業務だったのです。