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『小さな宇宙ベンチャーが起こしたキセキ』 - 日本初「宇宙商社」の誕生物語

「商社を扱った作品」の第五弾は、永崎将利『小さな宇宙ベンチャーが起こしたキセキ』(アスコム、2020年)です。2017年9月、日本初となる「宇宙商社」Space BDを創業し、たった3年でNASAJAXAとの協業を果たした代表取締役社長・永崎将利による実話に基づいた「自伝的小説」。本書のねらいは、宇宙産業にたどり着くまでの足跡、「大きな失敗談と小さな成功体験」の集積を描き出し、「現状にそこはかとない不満を抱える人」や「大きな夢を抱く人」に「刺激とヒント」を感じ取ってもらうことにほかなりません。

 

[おもしろさ] 「客を連れてくる者」が必要になったのは? 

近年、ロケットの開発は急速な発展を遂げています。おそらく、ロケット開発という「ハード」の分野は、ほおっておいてもどんどん進んでいくことでしょう。しかし、地球と宇宙を行き来できるインフラがいくら整備されても、利用する人がいなければ、ビジネスとして、これまで以上の発展は望めません。「技術者が大勢いても、客を連れてくる者がいない」という現状を変えていくことが求められているわけです。それゆえ、このマーケットでは、「宇宙で事業をしたい人と現状の産業をマッチングさせる」という商社的な発想を有したプレイヤーの出現が待ち望まれていたのです…。日本初の試みと言われているだけに、永崎がさまざまな人的ネットワークを軸に、それらをうまく組み合わせ、再構築しながら、少しずつ歩むべき道をつくり上げていくプロセスには、大いに感嘆させられるでしょう。

 

[あらすじ] 「自分が一生を賭してやるべき仕事」とは

2013年に、十年間務めた日ノ本物産を退職し、無職の1年を経て、ナガサキ・アンド・カンパニーの看板を掲げた永崎将利。当初は何をやってもうまく行きませんでした。ときに騙され、煮え湯を飲まされた挙句、ついに教育事業に光明を見出すことになります。ところが、そこでふと自分の立ち位置を見失いつつあることに気づいたのです。「自分が一生を賭してやるべき仕事は、本当にこれなのか」と。そんな永崎に手を差し伸べたのが、投資家として名高い赤浦徹でした。3日後、「永崎さん、見つかりました! ロケットです、ロケットをやりましょう」。興奮気味の口調で言い放った赤浦からの電話。突拍子もない提案に、戸惑いを隠せない永崎。そもそも永崎は、大学では教育学部を卒業し、宇宙工学の素養があるわけでも、宇宙産業に知見があるわけではありませんでした。しかし、そこに無限の可能性を感じた永崎。無謀とも思えたビジネスを手掛けることになります。といっても、ロケットを作るわけではありません。衛星を打ち上げたい、宇宙空間で実験を行いたいという各顧客の要望に応じて必要なサポートやコーディネートを担うのが業務のメインなのです。「宇宙商社」のビジネスがなぜ浮上したのか、どのようにして創業にまでこぎつけることができたのか、どのような業務を展開させているのか。物語は、そうした疑問に答えてくれます。