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『決戦は日曜日』 - 政治家というお仕事って? 

衆議院参議院の違いはありますが、国会議員とは、ルール(法律)や方向性(政策)を定めたり、税金の使い方を決めたりして、安全で暮らしやすい国にする活動を仕事にしている人のこと。国民の利害を代弁し、国の将来計画・ビジョンを示すことが求められる政治家にとって、責任感・情熱・洞察力は、不可欠な三つの資質です。とはいえ、国民というよりは、自分自身の既得権や名誉欲に重きをおいているとしか思えないような政治家もいるように見受けられます。また、派閥の親分に忠義を尽くしたり、党利党略が最優先にされたりで、国民不在とそしられてもしかたがないところがあるのではないでしょうか。今回は、モラルの低下が問われて久しい国会議員という仕事の「光と影」を浮き彫りにした三つの作品を紹介します。

「国会議員を扱った作品」の第一弾は、高嶋哲夫『決戦は日曜日』(幻冬舎文庫、2021年)です。「政治家などには、絶対になりたくない」。そのように考えていたものの、選挙に出ざるを得なくなった、天真爛漫の女性候補者が巻き起こす騒動の数々。「常識を超えた選挙戦」の内実が、私設秘書の目線で「ユーモアと皮肉」という調味料をふんだんに使って描かれています。2022年1月7日に公開された映画『決戦は日曜日』(脚本・監督は坂下雄一郎、主演は窪田正孝さん、宮沢りえさん)の脚本をもとに書き下ろされた作品です。

 

[おもしろさ] 政治家の「建前」と「本音」

政治家として活動するためには、誰しも「選挙」という関門を通過する必要があります。候補者は普通、あの手この手を駆使して当選しようと懸命に活動を展開します。選挙戦では、おおむねそれまでに積み上げられてきた常道というものがあり、候補者にも周囲の人たちが敷いたレールの上を走り続けることが要請されます。ときには、本音を隠し、もっぱら表向きの「建前」と美辞麗句を繰り返して有権者の関心を引くのに注力することも。しかし、もし「選挙に落ちても構わない。本音だけで通そう」。そんな候補者がいれば、いったいどのような選挙活動があり得るのでしょうか? 本書の魅力は、まさにその点を徹底的に描き出している点にあります。

 

[あらすじ] 常識破りの選挙戦

千葉県にある人口40万人ほどの中堅都市・小脇市で強い地盤を有する民自党の大物衆議院議員・川島昌平75歳。あとひと月余りとウワサされている解散・総選挙に出馬の意向でしたが、脳梗塞で倒れてしまいます。急遽「後継者」に担ぎ出されたのは、昌平の一人娘で、自由奔放に育った世間知らずの「お嬢様」川島有美45歳。ネイルサロン経営者で、政治にはまったく関わってきませんでした。初めて経験する記者会見では、差別発言をしてしまいます。さらに、講演中に泣いてみたり、悪質なユーチューバーの挑発にのせられ「暴力事件」の当事者に仕立て上げられたり、後援会とやりあったり、屋上から飛び降り自殺を企てたりすることも。昌平の地元事務所を事実上切り盛りしている政策秘書濱口祐介50歳を筆頭に、周囲の人たちに怒りと困惑をまき散らすことになります。それでも、有美の担当者としての業務(「有美さん係」)を割り振られた私設秘書の谷村だけは、「迫力があり、いつも本音で話し本音で生きている」有美に好感を持ち、「むしろ政治家として向いている」ことを見出します。ところが、選挙を通じて、政治献金を集め、それらを後援者や秘書の主だったところで分配するという「極秘のシステム」の存在を知るや、「選挙に落ちてやる」と、彼女の選挙に対する思いは、非常にネガティブな方向に変わっていったのです。