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『国会議員基礎テスト』 - 「お任せ民主主義」が生み出した! 

「国会議員を扱った作品」の第三弾は、黒野伸一『国会議員基礎テスト』(小学館文庫、2020年)です。「民主主義国家」と言われている日本。しかし、テレビに出ているので投票しようと安易に決めてしまう国民。社会が不安定になったり、生活が苦しくなったりすると、政治が悪いと一方的にまくしたてる国民。「国民全員が主体性を持って立ち上がるのが民主主義なのに、すべて政治家任せだ」。そうした「民度の低さ」「お任せ民主主義」を背景に生み出されているのが、力量不足の政治家の大量出現にほかなりません。ここでは、目を覆いたくなるような国会議員の「負」の側面が暴露されていきます。そして、国会議員にも資格試験を義務化させるべきであると考え、法案の立法化にまい進しようとした国会議員の姿とともに、国会議員に求められている資質について描写されていきます。

 

[おもしろさ] 政治家にも資格試験が必要では? 

三権分立を構成するのは、立法権(国会)、行政権(内閣)、司法権(裁判所)の三つ。そうした機構のなかで、さまざまな職業人が働いています。そのうち、裁判官、国会議員からの指示を実行する立場にある官僚になるには、難関な試験を合格する必要があります。ところが、国会議員になるには、そうした資格試験は一切ありません。だからいい加減な人物であっても、国会議員になれてしまいます。果たして、それで良いのか? そんな問題意識のもとで書かれたのが本書です。では、どのような基礎テストが構想され、議論され、着地に導かれていくのか? 興味津々の展開が待ち受けています。

 

[あらすじ] 最後で明かされる「基礎テスト」の中身とは? 

黒部優太郎33歳は、父も祖父も衆議院議員という政治家一家のなか、甘やかされて育ちます。政治に関心があったわけではありませんでした。が、地盤を継げと言われて自由民権党公認で衆院選に出馬。比例当選し、一年生議員に。優太郎の政策秘書になった橋本繁の評価は、「とんでもないアホ」「隙あらばサボろうとする、チャランポランな男」というもの。その優太郎に「逆風」が吹き始めます。まずは自身のスキャンダル、次に、TVバスターというテレビ番組での「国会議員検定試験」において「勉強不足」が露呈(それは、同番組の須藤ディレクターを巻き込み、優太郎のバカさ加減をさらけだすという橋本の策略だったのですが)。優太郎は議員辞職を余儀なくされます。数か月後に実施された補欠選挙で当選を果たした橋本は、「国会議員検定試験」を法制化しようと目論み始めます。ところが、「国会議員基礎テストを推奨する橋本繁センセイは、如何にして黒部優太郎氏の選挙区を奪ったのか」というタイトルの記事が週刊誌に掲載。橋本は、自由民権党を離党。一方、議員を辞めてからの優太郎は、「一からの出直し」のつもりで、実際に介護施設で真剣に働き、現場での労働の大変さを実感していきます。そして「この国の貧困と格差の現状を訴える」ことに関心を持つようになります。しかも、他人の痛みがわかる、優しい人間に変身していたのです。次の選挙では、貧困問題の解決をめざすというビジョンを掲げて無所属で立候補することを決意。さらには、栃木県北西部の山岳地帯にある過疎地「つくね村」で都会から移住してきた8名の若者たちが独自に展開している「村おこし」運動を本気で手助けしたいと考えて行動。それに対して、橋本の方は、「国会議員にも選抜試験を」という考え方に賛同した衆参国会議員15名で「自由新党」を立ち上げ、共同代表に就任します。解散総選挙が決まると、優太郎と橋本は、熾烈な選挙戦に突入していきます。