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『底なし沼』 - 闇ビジネスの恐ろしさとドス黒さ

「闇ビジネス」あるいは「裏ビジネス」といった言葉。公的な数値や統計などには一切あらわれない世界。完全に非合法と言える行為だけではありません。合法と非合法の挟間にある「グレーゾーン」まで視野に入れると、そこには、非常に幅広い種類・職種・領域が含まれます。ごく普通に生活している人たちの世界に浸透してくるケースもまれではありません。それゆえ、「闇ビジネス」について知っておくのは、現代人にとって必要不可欠なことと言えるかも知れません。今回は、秘密のベールに包み込まれた「闇ビジネス」の一端を探るべく、その恐ろしさとドス黒さを扱った作品を四つ紹介します。

「闇ビジネスを扱った作品」の第一弾は、ヤミ金を素材にした新堂冬樹『底なし沼』(新潮社、2006年)です。だれでも借りられて、しかも即日融資。とはいえ、べらぼうに高い利子がつく。それが、未登録の貸金業者あるいは、出資法に違反する高利子を取る業者によって行われる闇金融です。一旦始まると後戻りが許されない「底なし沼」のようなヤミ金の恐ろしさが浮き彫りにされています。

 

[おもしろさ] 債権取り立てのエグさ

本書の特色は、「凶暴のオーラ」をまとい、債権回収に執念を燃やす蔵王金光の「半端ではない」やり方とそのエグさ、さらには容赦なく債権を取り立てるやり方(①債務者に恐怖心を植え付けること、②債権者に関する情報を引き出しておくこと、③債務者はもちろん、その配偶者・子ども、職場など、相手の弱点を把握し、徹底的に攻めまくること)が克明に描き出されている点にあります。蔵王のエグさが象徴的に示されるのは、すでに完済された債務を取り立てる、いわゆる「二重取り」。すでに終わったはずの借金の取り立てなど、なぜできるのでしょうか? それは、だれかが意図的に処分されるはずの書類を破棄しないで残しておき、債務者が完済したという証拠をなくしてしまうからです。騙されないためには、「領収証を必ず貰う」こと、「返済したときは、必ず契約書を破棄する」ことが肝要だと、読者に語り掛けているのかも知れません。

 

[あらすじ] 一匹狼が暴力団相手に戦いを挑む! 

「十日で四割の高利貸し」という闇金業者の大東商事(オーナーは業界の黒幕的存在である市之瀬雄一)。4年前までは、蔵王が社長を務めていました。同社の債権回収率は95%。驚異的とも言うべき高い回収率は、蔵王という人物の持つ取り立て術のなせる業でした。彼ににらまれた人間は、「完済するまでは、どこまでも、どこまでも、無限に追い込まれる」のです。一匹狼となった現在、闇金業者・蔵王の「ビジネス」とは、債権者から債権を買い、すでに完済した借金を「元債務者」からもう一度取り立てる「二重取り」というもの。雨竜組の若頭である市之瀬には、毎月200万円の上納金を支払うことで、彼の「秘蔵っ子」としての「地位」をいまでも保持しています。ところが、蔵王と結婚相談所を営む日野健一郎との熾烈なバトルが勃発・本格化。さらに、日野が市之瀬に泣きつくと、蔵王の敵は市之瀬と変わっていきます。かくして、蔵王と市之瀬のメンツがぶつかり合い、破局的な結末へと一直線! 

 

底なし沼