令和元年における女性の労働力人口は3058万人。男性の3828万人と比べると、少ないものの、労働力人口に占める女性の割合は44.4%に達しています。いまでは、女性がいない職場自体、非常に少なくなっていると言っても過言ではありません。それゆえ、働く女性について考える場合でも、「男性とは異なった、女性ならではの悩みやホンネ」が前面に出るというよりは、「男性でも女性でも、働く人であれば同じように直面する悩みやホンネ」に迫れるような内容の作品が増えています。トレンドとしては、性差よりも個人差がより大きいものとして扱われていくのではないでしょうか。そこで、今回は、タイトルに「ガール」が入っている五つの作品を通して、「働く女性」のあり方について考えてみたいと思います。 なお、2020年9月17~29日に、同じく「働く女性」というテーマで『女たちのジハード』『ガール』『闘う女』『ハタラクオトメ』の四つの作品を紹介いたしました。そのときは、女性の目線、女性に固有な考え方に力点をおいた作品紹介を行いました。今回とはまた異なった視点がより前面に出ていますので、興味のある方は、比べ合わせてご覧になっていただければ幸いです。
「働く女性を扱った作品」の第一弾は、白バイ隊員を描いた佐藤青南『白バイガール』(実業之日本社文庫、2016年)です。白バイ隊員の業務内容、仕事に対する情熱、隊員同士の友情などが浮き彫りにされています。憧れていた白バイ隊員になれたのに、もう辞めたくなってしまった主人公。違反ドライバーの罵詈雑言に苦しむ毎日を送っています。「白バイ・シリーズ」第一作目の作品。
[おもしろさ] 白バイ隊員のリアル
白バイ隊員の日常業務のあれこれがリアルに描かれています。「一日平均三、四枚の切符を切らないとノルマをこなせない」。白バイ隊員にも、違反者の取り締まりに「ノルマ」が。それゆえ、ときには、違反者が多い「漁場」(ドライバーが交通法規違反を犯しやすい地理的条件を備えた場所のこと)で、「効率」も考えた取り締まりも必要になるようです。交通違反は、毎日、日本中で何千件何万件と発生しています。しかし、罰せられるのは、たまたま警察が把握したごく一部に過ぎません。捕まった人は、理不尽だと、文句の一つも言いたくなるのです。白バイ隊員は、「その理不尽を抱えながら仕事しないといけない」と指摘されています。
[あらすじ] 正反対の白バイ女性隊員
箱根駅伝を先導する白バイに憧れ、神奈川県警の警察官になった本田木乃美。5年もの月日を要してついに念願の白バイ隊員に。しかし、「止まりなさい!」と、なかなか強い口調で言い出せない。違反ドライバーには、罵詈雑言を浴びせられる。押しも弱く、自信を持てない。白バイ隊員として十分な「戦力」になっていない。日々、自分のふがいなさを痛感させられている。「応援したくなるなにかがある」のか、周りの人には、愛されるキャラクターなのですが……。他方、同じ年で、同僚の女性隊員・川崎潤の方は、一匹狼的存在。なんでもテキパキとこなし、押しの強さで違反者と対峙していきます。彼女の取り締まり成績は常にトップクラス。「エンジン音を聞くだけで、車種と、おおおよその速度までも言い当てる」という特技と、「白バイを扱わせれば、そんじょそこらの男性隊員には負けないという自信」の持ち主でもあります。対照的な二人の間は、どこかぎくしゃくしたところが見られます。そんななか、不可解な暴走死亡事故が発生。木乃美が背景を調べ始めると、思いがけない事件との接点が……。