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『特急便ガール!』 - 送り主と受取人をつなぐのは……

「働く女性を扱った作品」の第二弾は、バイク便運営会社の配達員を描いた美奈川護『特急便ガール!』(メディアワークス文庫、2011年)です。バイク便運営会社で働くことになった女性配達員・吉原陶子。突然、常識人の理解の範疇を越える「瞬間移動」という力が備わっていることに気づきます。遠距離の「ハンドキャリー便」を任された陶子は、あたかも「距離をかける少女」のごとく、その力を使って大活躍。

 

[おもしろさ]「荷物に託された想い」と「瞬間移動」

ハンドキャリーとは、「誰かの手によって、荷物に込められた想いごと手渡しで届ける、素晴らしい配達手段」です。「荷物に託された想い」が、陶子の中に秘められていた「瞬間移動」のパワーによって引き出され、送り主と受取人の心をつないでいきます。本書の特色は、陶子を媒介して作り出された心温まる両者間の交流がファンタジックなタッチで描かれている点にあります。荷物を届けるというお仕事には、その荷物を送ろうとする人のさまざまな思いを届けるという意味が含まれている。そのことに気づかされる作品でもあります。

 

[あらすじ] 東京-京都を6時間以内で往復する! 

上司を殴ったことで退職した陶子は、面接を受けようと、同僚の紹介で小さなバイク便運営会社「ユーサービス」に赴きます。ところが、代表取締役兼総務・経理担当の如月紘一郎は、「今からこの二つを、目的地まで最短時間でお届けてきて……。はい、今から測るよ。よーい、スタート」という言葉とともに、いきなりストップウォッチを押します。元陸上部の悲しい性でしょうか、陶子は、二つの封筒を持ってほぼ反射的に駆け出していきます。ところが、ひとつの伝票の住所は間違いで、記された住所もビルも存在しませんでした。次に課せられたのは、京都まで荷物を運んで、6時間で戻ってくるというもの。新幹線に乗車しようとした瞬間、陶子の視界が暗転。なんと、「瞬間移動(テレポーテーション)」!