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『モップガール』 - 特殊能力者が「特殊清掃」を通して事件・事故の謎を暴く

「働く女性を扱った作品」の第三弾は、清掃会社で働く女性を描いた加藤実秋『モップガール』(小学館文庫、2009年)です。事件・事故現場の後始末という「特殊清掃」を請け負っている清掃会社の清掃員。一般的な清掃会社とはまた異なり、驚きや苦労が絶えません。変人ばかりの清掃員たちの同僚になった長谷川桃子は、ある清掃現場でフラッシュバックに襲われます。そして、彼女の超常現象が手掛かりとなり、事件や事故の謎が明らかにされていきます。2007年10~12月にテレビ朝日で放映された『モップガール』(出演は、北川景子さん、谷原章介さん)の原作。「モップガール・シリーズ」第1作目。

 

[おもしろさ] 「血がドバー、脳みそブシュー」の世界で働く

本書は、清掃会社に勤めるヒロインが、特殊な能力を駆使して、事故や事件の真相を解明していくというミステリーものです。と同時に、特殊清掃という、一般の人にはほとんど知られていないものの、社会の中では必要不可欠な「縁の下の力持ち」的な仕事を描いたお仕事小説でもあります。血の海、飛び散る脳漿、死体の腐乱臭、垂れ流しの糞尿などで特徴づけられる凄惨な事件や事故の現場。その後始末を引き受けてくれる業者は、簡単には見つかりません。まさしく「血がドバー、脳みそブシュー」の世界。「手間がかかる割には儲けが少ないし、床と壁を傷めずに血痕や匂いを消す技術とか、肝炎やHIVなんかの血液媒介型感染症への対策に自信がないから」、嫌がられるのです。

 

[あらすじ] まったく見覚えのない街の風景が目の前に

「いろんな種類のバイトをできるだけたくさんやる」ことを信条としている長谷川桃子は22歳のフリーター。「お部屋磨きで自分も磨こう! 高級優遇・初心者歓迎!」という広告に誘われ、面接を受けたのは、清掃会社「クリーニングサービス宝船」。同社の業務の80%はごく普通のオフィスビルやマンションの清掃。ところが、残りの20%は犯罪・事件・交通事故の現場を後始末するという特殊清掃だったのです。いきなりその現場に連れていかれ、驚く桃子。直ちに辞めようとするものの、とことん無愛想で何を考えているのかわからないバイト・大友翔の徴発を受けて立つ形で、同社で働くことに。ある日、殺人現場となったマンションの清掃に携わっているとき、まったく見覚えのない街の風景が目の前に立ち現れます。自分の身に降りかかることとなった、その超常現象に戸惑い、悩む桃子。しかし、翔とともに、その能力を使って、当事者の死にまつわる謎を解き明かすようになっていきます。