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『ローカルバンカー』 - 地域金融機関の実態と「あるべき姿」! 

2022年3月8日~3月22日の本ブログにおいて、全国展開からさらにはグローバルな規模での事業展開を行っているメガバンクの今日的状況を探るべく、五つの作品を紹介しました。そして、「健全な経済活動の潤滑油となる資金を供給し、企業を支え、取引先とともに栄えることに貢献する」といった「バンカーとしてのプライド」が、熾烈な銀行間競争によって大いに毀損しつつあるという現状を指摘しました。もちろん、そうしたプライドの毀損は、けっしてメガバンクに限定されるわけではありません。主に地域の中小企業や個人を相手に事業活動を行っている地域金融機関においても、同じように生じているからです。とはいえ、メガバンクと地域金融機関の間には、金融機関としての共通性とともに、大きな差異が横たわっていることもまた事実。後者が支えるべき地方の中小企業の多くが、少子化・高齢化に伴う地方経済の衰退のあおりで、業績の低迷から脱出できない状態にあります。事態はより深刻なのです。今回は、地方銀行(地銀)や信用金庫といった地域金融機関を扱った三つの作品を紹介します。

「地域金融機関を扱った作品」の第一弾は、松尾吉記『ローカルバンカー』(ブイツーソリューション、2017年)です。地方銀行で働くことになったシニア銀行員の苦悩が赤裸々に描き出されています。ローカルバンカーとしての矜持とは? 地方における中小企業金融の実態とは? 大手銀行や地域金融機関での実務経験を有する著者ならではのコンテンツになっています。

 

[おもしろさ] 「貸す側」にも「借りる側」にも問題が

地方における中小企業金融。うまく行っていないのには、どういった理由があるのでしょうか? 金融機関側の理由としては、①低金利下での利ザヤの縮小に伴う効率性の追求と手数料業務へのシフトがすべての金融機関で横並び的に実施されていることで、独自な戦略・事業展開がおろそかになっていること、②貸し出し競争も相変わらず「量的拡大」が追求され続けていること、③中小企業の事業内容と財務状況を融合して見る力、インタビュー力、記録して継承していく力など、すべてにおいて銀行員の力量不足が顕著になっていることなどが挙げられています。また、中小企業側の理由としては、①経営者の高齢化と事業継承者の不足、地域での起業不足と廃業の増加、②ビジネスモデルの陳腐化、③地域経済の疲弊などが示されています。本書の特色は、そうした二つの側面から地域金融機関が抱える問題が浮き彫りにされると同時に、再生への模索にも言及されている点にあります。

 

[あらすじ] 第二地銀のバンカーとして再出発

昭和27年生まれの林田一男は、九州の地方都市の大学を出て、大手都市銀行日の丸銀行に入行。バブル崩壊後、大阪で支店長を務めていたのですが、同行の体質に嫌気がさし、希望退職に応じます。そして、一般企業での勤務を経験したあと、第二地銀の「のぞみ銀行」(貸出金残高5000億円、行員数600名、店舗数53店舗)に就職。ローカルバンカーとしての林田の活動が開始されたのです。そこで痛感したのは、非効率な仕事の仕方、現場の意見が本部に届かないという実情、人材の薄さなど、変わり切れていない地銀の姿でした。が、ローカルバンカーとしてのあるべき姿を追いかけて、全力で駆け抜けていこうとするのです。