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『団塊の後』 - 団塊の世代は「負の遺産」を残したのか? 

団塊の世代を扱った作品」の第三弾は、堺屋太一団塊の後 三度目の日本』(毎日新聞出版、2017年)。「団塊の後」、すなわち「団塊の世代を父に持つ世代」に属する人たちの動きに焦点が当てられています。2026年の日本が抱えている数々の難題、それをもたらした官僚主導の政治システムと「安全・安心・安定ばかりを優先した意欲と冒険心の減退」、そうした難題を打破しようとする人たちの格闘が描写。果たして、日本の近未来は? 

 

[おもしろさ] 抜本的な改革は実現できるのか? 

経済不況、少子高齢化、労働力不足、地方小都市の苦渋といった諸問題を抱え、すでに危機的な状況と言える日本の現実。このままでは、日本経済のダウンサイジングがさらに進んでいきます。後期高齢者となった団塊の世代も、「10年以内に三割は亡くなるでしょう」。そうなると、大学はもちろん、医師や病院も余ってしまうのです。ところが、そうした問題を抜本的に変えていこうという動きは、けっしてパワフルなものではありません。官僚たちが知恵を絞り、打ち出した改革案は、それまでの政策の延長線上に位置づけられるものと言わざるをえないのです。例えば、日本国総理大臣の徳永好伸47歳は、「身の丈に合った国」であれば良しとしています。つまり、「成長に気張らず、国内総生産の数値を気にせず、外国の富と競わず、日本自身の幸せを追求すべきだ」と考えているのです。良好な治安、少ない交通事故や労働災害、正確な交通機関、世界一の長寿などに特徴づけられる「素晴らしい国」という認識なのです。もちろん、何もかも現状でよいと思っているわけではないようです。しかし、「思い切った改革」が必要だと主張してはいるのですが、その内容たるものを見ると、「従来政策の強化継続」の域を脱するものとは言えません。それに対して、大阪都知事の杉下晋作は、「三度目の日本」というキーワードを設定し、抜本的な改革の必要性を主張します。一度目の「明治の日本」、二度目の「戦後日本」と並ぶような、モトから日本を創造するような「三度目の日本」を創るべきだと言うのです。本書の特色は、そうした「三度目の日本」の実現をめぐる動きを浮き彫りにしている点にあります。

 

[あらすじ] 経済産業省流通経済課長は「団塊の後」の世代

経済産業省流通経済課長の小久保平治は、1974年生まれの51歳。徳永首相の「思い切った改革」を文字通り、「大胆な改革」と考えていました。ところが、団塊の世代に属する1948年生まれの父・昭次77歳の方は、「この沈滞した日本を立ち直らせるには、あの程度じゃダメ」だと手厳しい評価を下しているのです。それに対して、テレビ画面を通して、杉下大阪都知事が「二つ目の仕事」「職場に活力と緊張を」と主張したときには、小久保の息子である大学生の好一は、大いに共感を覚えたのです。逆に、平治の方は、「二つ目の仕事」というスローガンに井上香里の思い入れを感じたのです。井上とは、小久保と同じ流通経済課の課長補佐にほかなりません。