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『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』 - 危機に陥ったレストランの再生劇

「イタリアン・レストランを扱った作品」の第三弾は、佐藤義典『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』青春出版社、2010年)です。危機に陥ったレストランの再生を図るための方策・考え方とは、いかなるものなのか? 店づくりのコンセプトをどのように確立させていくのか? それらの点を明らかにした、経営コンサルタントによるビジネス・ノベル。著者の言葉を紹介しましょう。マーケッティングの入門書の多くは「こういう考え方も、あういう考え方もある」という説明に終始し、理論間のつながりやその使い方が示されておらず、実戦で使うには難がありました。本書はそれを解決し、入門書でありながら実戦性を高めました」。

 

[おもしろさ] 再生への道を一歩一歩! 

本書の特色は、倒産寸前のイタリアン・レストランをどのように再生していくのかを明示している点にあります。それは、①考え方の整理、②イタリアンの徹底した食べ歩き(現場体験)、③客がレストランでお金を払うのは、単に料理を食べるだけではなく、オシャレ感とか、楽しさだとかを買っていることを認識すること、④来店者に対するアンケートを通して、「店員の対応の良さ」「料理のおいしさ」「店の明るさや開放感」「パソコンが使用できる」「流れている音楽の快適さ」「トイレの清潔さ」など、思いもしなかった視点があることへの気づき、⑤お客様のホンネを探ること、⑥ランチ・午後・夜のそれぞれに応じたターゲットの絞り込み、⑦「そーれ・しちりあーの」(「シチリアの太陽」という意味)への店名変更というように、一歩一歩進められていったのです。

 

[あらすじ] 「体験して、感じて、その中からつかみ取るもの」

売多真子(25歳)は、大学を出てから大手旅行代理店で添乗員などの仕事を3年ほど経験。しかし、マーケティングに興味を持っていたので、中堅商社である広岡商事の新規企画室の公募を知り、採用されます。まだ勤め始めて1ケ月。それが、倒産寸前の「リストランテ・イタリアーノ」の再建を託されることに。しかも、タイムリミットは2ケ月。それまでに、取締役会が納得できる改善策が出ない場合は、新規企画室は解散し、店も閉店。そうした過酷な社命を押し付けられた彼女は、コンサルティング会社を経営している親戚の売多勝の助けを借りながら店の再生に挑もうとします。ところが、訪れた「リストランテ・イタリアーノ」で、シェフ兼店長代理の清川和男からは、「うるせーな、おまえらは信用できねえ」と突き放されます。また、勝の求めに応じて1週間考えて作成した企画書は、読む価値のない「ひどい」ものだと指摘されます。そこには、外食市場の動向とか、人口構成の変化とか、最近のトレンドといった市場分析が盛り込まれていたとはいえ、レストランを選ぶ場合の「肌感覚」のようなものが一切欠如していたからです。勝は言います。マーケティングとは、当事者が「体験して、感じて、その中からつかみ取るもの」だと。